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第14話 ハトの知人の返事 マリユ視点
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「ああ、構わないよ。伝えるつもりはない」
『本当に、よろしいのですね? 自分が「ハトの知人」だと、あの方に伝えなくて』。その問いかけに対し、僕は即答した。
「ソフィーさんに嘘を吐き続ける事は心が痛むし、話を合わせてもらっているアリスにも迷惑をかけてしまっている。けれどそれでも、名乗るべきではないんだよ。『ハトの知人』とマリユ・ジョンピスは、一致してはいけないんだよ」
どんな事情があれ、僕は彼女を騙していたのだ。
むろん説明をすれば悪意がないと理解してもらえるけれど、8年間も嘘を吐かれていた――。それを知れば、大なり小なりショックを受けてしまう。
「…………『ハトの知人』は、最初から最後まで『本物』だった。世の中は、裏切りだけじゃないんだよ。……実際は、少し違ってしまっているけれど……。そう思って、いてもらいたいんだ」
彼女が、これからも様々なものを信じていけるように。怯えずに生きていけるように。『ハトの知人』は、嘘偽りがない存在にしないといけないんだ。
「だから。アリス、お芝居をお願いします。……ソフィーさん。ごめんなさい」
改めて、目の前と斜め上に向かって頭を下げる。
あの出来事のせいで、大切なものを失って欲しくないから。ご迷惑をおかけします。嘘を、つかさせてもらいます。
「…………アリス、パイと紅茶の準備ができたよ。二つは重いし危ないから、紅茶は僕が持っていくね」
「ええ。よろしくお願いしますわ」
その様子をじっと見つめていたアリスは小さく頷き、「兄さん」と続ける。
「あたしはお父様達に、なんて呼ばれていたっけ?」
「人間版様々な姿に変身できると言われている妖怪の名前。そう呼ばれているね」
アリスは処世術を学んだことが切っ掛けとなって、人を欺くことに目覚めた――非常に大好きになった。そのため相手に合わせていくつもの『キャラクター』を完璧に演じる事が出来て、雰囲気まで別人のようにコロコロ変える事ができる。
「そんなワタシが、ああ尋ねた。ソレはつまり――。どういうコトか分かる、お兄ちゃん?」
「…………いや、分からないよ。どういうこと、なんだい?」
「ふふふ。分からないのであれば、内緒ですわ」(すでにその芽は、伸び始めている。であれば、言及する必要はありませんわね)
「? アリス? 後半、ぼそぼそと何を言ったんだい?」
「わたくしごと、ですわ。さあお兄様、参りましょう」
「あ、ああ。うん。よろしくお願いします」
こういう時のアリスは決して教えてはくれないので、気にはなるものの首肯。僕はポットやカップ達の運搬を終えると、
「ソフィー様。ごゆっくりどうぞ」
「は、はい、マリユ様。わ、私のためにわざわざ運んで来てくださり、ありがとうございました」
心の中で今一度謝罪をしつつ微笑みを浮かべて部屋を去り、そうしてアリスとソフィーさんの――。『ハトの知人』達の楽しい時間が、幕を開けたのだった。
『本当に、よろしいのですね? 自分が「ハトの知人」だと、あの方に伝えなくて』。その問いかけに対し、僕は即答した。
「ソフィーさんに嘘を吐き続ける事は心が痛むし、話を合わせてもらっているアリスにも迷惑をかけてしまっている。けれどそれでも、名乗るべきではないんだよ。『ハトの知人』とマリユ・ジョンピスは、一致してはいけないんだよ」
どんな事情があれ、僕は彼女を騙していたのだ。
むろん説明をすれば悪意がないと理解してもらえるけれど、8年間も嘘を吐かれていた――。それを知れば、大なり小なりショックを受けてしまう。
「…………『ハトの知人』は、最初から最後まで『本物』だった。世の中は、裏切りだけじゃないんだよ。……実際は、少し違ってしまっているけれど……。そう思って、いてもらいたいんだ」
彼女が、これからも様々なものを信じていけるように。怯えずに生きていけるように。『ハトの知人』は、嘘偽りがない存在にしないといけないんだ。
「だから。アリス、お芝居をお願いします。……ソフィーさん。ごめんなさい」
改めて、目の前と斜め上に向かって頭を下げる。
あの出来事のせいで、大切なものを失って欲しくないから。ご迷惑をおかけします。嘘を、つかさせてもらいます。
「…………アリス、パイと紅茶の準備ができたよ。二つは重いし危ないから、紅茶は僕が持っていくね」
「ええ。よろしくお願いしますわ」
その様子をじっと見つめていたアリスは小さく頷き、「兄さん」と続ける。
「あたしはお父様達に、なんて呼ばれていたっけ?」
「人間版様々な姿に変身できると言われている妖怪の名前。そう呼ばれているね」
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「は、はい、マリユ様。わ、私のためにわざわざ運んで来てくださり、ありがとうございました」
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