4 / 35
第2話
しおりを挟む
あれは、10歳の頃のことです。わたしはお屋敷のお庭で、不思議な出会いをしました。
「きゅぅ……。きゅぅぅ……」
その子を見つけたのは、独りで遊んでいる時。花を見るため花壇に近寄ってみたら、パンジーとパンジーの間に、掌サイズの黒い生き物が隠れていたんです。
「背中に、小さな翼が生えてる。子犬さん? 子猫、さん? どっちもちがう、よね……?」
「きゅう……。きゅう……っっ」
「苦しそうに、してる? どうしたのかな――大変っ! この子ケガしてるっ!!」
蹲っていて気づかなかったけど、お腹から血が出ていた。それもどっさり、土に滲むくらいに。
「このままじゃ、死んじゃう……っ。助けないとっっ」
「きゅぅ……っっ。きゅきゅっ……! きゅぅぅ……っ!」
「大丈夫、だいじょうぶ。わたしはね、悪い人じゃないんだよ。あなたを助ける人だから、怖がらないでね」
精一杯ニッコリ笑って自分の部屋に運んで、使用人にクスリ箱を貰って大急ぎで戻る。
お父様もお母様もお兄様も動物が大嫌いだし、こんな生き物は見たことがない。見つかると気味悪がって捨てられてしまうから、自分が怪我をしたと嘘を吐いて独りで手当てをすることにしたのです。
「きゅぅ……。きゅぅぅぅ……。きゅぅぅぅぅ……」
「わたしは動物が大好きでね、お屋敷で飼えないから動物の本をいっぱい読んでるの。ケガをした時にすることもちゃんと知っているから、安心してね」
お腹にある大きな傷を消毒して、止血効果のある薬草を優しく患部に貼って、包帯を優しく丁寧に巻く。
熱もあるみたいだから、身体を氷で冷やして。こっそりミルクを持ってきて、ちょっとずつ飲ませてあげて。数時間に1回包帯を変えて、薬草を貼り直して。
「ん? 薬草と包帯が、随分と減っていないか?」
「ごっ、ごめんなさいお父様っ! わたしが使ってしまったんですっ」
危ない危ない。
怪しまれちゃうからお小遣いを使って包帯と薬草を買って、朝昼晩、毎日休まず看病する。
「きゅぅ……。きゅぅぅぅ……」
「平気だよ、『ソラ君』。絶対に治って、また空を飛べるようになるよ」
不安そうな時はお喋りをして、抱っこをして。
そんな毎日が続いて、わたし達が出会った日から9日後。ソラ君の傷は完治したのでした。
「きゅぅぅぅぅっ! きゅぅぅぅぅぅっ!」
「わぁ。熱が下がったら、急に治っちゃったねっ。ビックリだけど嬉しいよっ!」
「きゅぅぅっっ! きゅぅぅぅっ! きゅぅぅぅっ!」
わたしの頬に沢山スリスリしてくれて、幸せそうに何度も何度も鳴いてくれる。
でも。
そうやって喜びを表現してくれたあとは、寂しそうな表情と顔になりました。
「きゅぅぅぅぅ。きゅぅぅぅ……」
「空を見て……。自分を見て……。もう一回、空を見る……。………………そっか。ソラ君は、帰らないといけないんだね」
悲しいけど、今にも泣きそうだったけど。仕方がありません。
ソラ君にも帰る場所があって、待っている人がいるはずです。笑顔を見送らないといけません。
「ソラ君。わたしもね、ソラ君と過ごせて楽しかったよ。よかったら、またわたしに会いに来てね」
「きゅぅぅっ! きゅぅぅぅっ! きゅうううううううううううううううううううううううううううううっ!」
クリっとした瞳を潤ませてくれていたソラ君は、最後に大きく一鳴き。わたしの目を見つめて何かを言ってくれたあと、翼を広げて青空へと飛び出ったのでした――。
「きゅぅ……。きゅぅぅ……」
その子を見つけたのは、独りで遊んでいる時。花を見るため花壇に近寄ってみたら、パンジーとパンジーの間に、掌サイズの黒い生き物が隠れていたんです。
「背中に、小さな翼が生えてる。子犬さん? 子猫、さん? どっちもちがう、よね……?」
「きゅう……。きゅう……っっ」
「苦しそうに、してる? どうしたのかな――大変っ! この子ケガしてるっ!!」
蹲っていて気づかなかったけど、お腹から血が出ていた。それもどっさり、土に滲むくらいに。
「このままじゃ、死んじゃう……っ。助けないとっっ」
「きゅぅ……っっ。きゅきゅっ……! きゅぅぅ……っ!」
「大丈夫、だいじょうぶ。わたしはね、悪い人じゃないんだよ。あなたを助ける人だから、怖がらないでね」
精一杯ニッコリ笑って自分の部屋に運んで、使用人にクスリ箱を貰って大急ぎで戻る。
お父様もお母様もお兄様も動物が大嫌いだし、こんな生き物は見たことがない。見つかると気味悪がって捨てられてしまうから、自分が怪我をしたと嘘を吐いて独りで手当てをすることにしたのです。
「きゅぅ……。きゅぅぅぅ……。きゅぅぅぅぅ……」
「わたしは動物が大好きでね、お屋敷で飼えないから動物の本をいっぱい読んでるの。ケガをした時にすることもちゃんと知っているから、安心してね」
お腹にある大きな傷を消毒して、止血効果のある薬草を優しく患部に貼って、包帯を優しく丁寧に巻く。
熱もあるみたいだから、身体を氷で冷やして。こっそりミルクを持ってきて、ちょっとずつ飲ませてあげて。数時間に1回包帯を変えて、薬草を貼り直して。
「ん? 薬草と包帯が、随分と減っていないか?」
「ごっ、ごめんなさいお父様っ! わたしが使ってしまったんですっ」
危ない危ない。
怪しまれちゃうからお小遣いを使って包帯と薬草を買って、朝昼晩、毎日休まず看病する。
「きゅぅ……。きゅぅぅぅ……」
「平気だよ、『ソラ君』。絶対に治って、また空を飛べるようになるよ」
不安そうな時はお喋りをして、抱っこをして。
そんな毎日が続いて、わたし達が出会った日から9日後。ソラ君の傷は完治したのでした。
「きゅぅぅぅぅっ! きゅぅぅぅぅぅっ!」
「わぁ。熱が下がったら、急に治っちゃったねっ。ビックリだけど嬉しいよっ!」
「きゅぅぅっっ! きゅぅぅぅっ! きゅぅぅぅっ!」
わたしの頬に沢山スリスリしてくれて、幸せそうに何度も何度も鳴いてくれる。
でも。
そうやって喜びを表現してくれたあとは、寂しそうな表情と顔になりました。
「きゅぅぅぅぅ。きゅぅぅぅ……」
「空を見て……。自分を見て……。もう一回、空を見る……。………………そっか。ソラ君は、帰らないといけないんだね」
悲しいけど、今にも泣きそうだったけど。仕方がありません。
ソラ君にも帰る場所があって、待っている人がいるはずです。笑顔を見送らないといけません。
「ソラ君。わたしもね、ソラ君と過ごせて楽しかったよ。よかったら、またわたしに会いに来てね」
「きゅぅぅっ! きゅぅぅぅっ! きゅうううううううううううううううううううううううううううううっ!」
クリっとした瞳を潤ませてくれていたソラ君は、最後に大きく一鳴き。わたしの目を見つめて何かを言ってくれたあと、翼を広げて青空へと飛び出ったのでした――。
応援ありがとうございます!
6
お気に入りに追加
715
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる