婚約破棄をされてお屋敷を追い出されてしまった私を救ってくれた人は、幼い頃に助けた小さなドラゴンでした

第４話（２）

「でも襲撃で受けた傷は予想以上に深くて、案の定自力での回復は困難だった。アリシアちゃんが熱心に介抱してくれなかったら、間違いなくあのまま死んでしまっていたよ」
「アリシアさんのおかげで息子は一命を取り留め、無事にわたくし達のもとへと戻ってきてくれました。そしてその日から、８年に渡る戦いが幕を開けたのですわ」
「非公開にしているはずの帰路のルートとそこを通る時間、護衛の人数と馬車内での配置、その者たちが所有する武器と全員の戦闘時の癖までもが、なぜか完全に把握されていた。それ故に元凶は内部にいると判明し、アルクベールの証言を手掛かりに犯人探しが始まったのです」

　王族レベルの問題は、まず漏洩しない。だったら必然的に、内部の犯行になりますよね。

「あちらにとって、息子を仕留め損ねたのは誤算でした。息子が行方不明中に行われた調査では『護衛担当者１名の裏切り』『裏切ったその護衛も仲間に裏切られてその場で死亡』と判断されていて、本来は無実な者の仕業と偽装するつもりだったのですからな」
「とはいえ相手は、かなり狡猾。裏切りの線が怪しくなるとスケープゴートに『金目的で護衛を誘惑し、金を独り占めするためにその場でその者を殺した』と自白をさせて処刑するなど、なかなか尻尾を掴ませなかったんですの」
「そのため僕達も迂闊に動けなくて、真犯人が叔父一家だと掴んだのは１年前。そこから更に慎重に追い詰めていって、集めた証拠と『ようやく見つけた秘密兵器』を使ってやっと処せるようになって、片が付いたのは昨夕なんだよ」

　昨日の、夕方……。来てくれる数時間まで、必死に動き続けていたのですね……。

「そうしてようやく我々の騒動を解決できて、恩人にお礼をできる余裕ができたのです。しかしながら……。息子が御実家を訪ねてみると、アリシア殿は不在。その際に城への呼び出しと婚約を知り、同時に『気になること』も耳にしました」
「そこでこの子は後を追ってお城を目指し、そこで入れ違いに。幸いにもその後アリシアさんを見つけ、城ここへと運んだんですの」
「……そう、だったのですね。国王陛下、王妃殿下、すぐに気遣ってくださりありがとうございます。ソラ君も、何度も探してくれてありがとう」

　さっきああ言ってくださったけど、わたしがそうしたいから。降ろしてもらって姿勢を整え、一人一人に頭を下げさせてもらいました。

「久し振りに会ったらこんな風になっちゃっていて、しかも熱を出して倒れている。何回も驚かせちゃったよね？　ごめんなさい」
「ううん、アリシアちゃんが謝ることじゃないよ。それらの原因は、体質の変化でも不摂生でもないのだからね」
「…………え？」

　最初は励ましてくれていると思っていたのですが、その表情でそうではないと気が付きました。
　体質の変化でも、不摂生でもない……？　じゃあ、いったいなにが原因……？　
　そんなことを考えていた、その時でした。続いてソラ君の口から、信じられない言葉が出てきたのでした。


「あのね。君がそうなってしまっているのは、呪いのせいなんだよ」