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プロローグ エヴァネア・ロートスアール視点(2)
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「……ミエナ、エヴァネア。アネッサは本気で言っていると思うか?」
しばらく天井を眺めたあと。お母様、わたしの順に、お父様は視線を動かしました。
「わたくしは、NO。本気で言っているとは思えないわ」
「わたしもお母様と同意見です」
あの子が自ら貴族籍を――貴族としての生活を手放すとは到底思えません。出ていく、はこちらに対する脅しです。
「私もそう思っている。……ではミエナ、エヴァネア。『好きにしなさい』と返したら、あの子はどうすると思う?」
「…………出ていきはしないから……。お屋敷の中で、泣いて暴れるでしょうね……」
「…………そのあとはお父様とお母様、そしてわたしが困ることを考え、困らせてやろうと嬉々として実行するのでしょう……」
こんなにも悲しい思いをしているのだから、三人にも味わわせてあげますわ――。被害者意識全開で、そのように振る舞うでしょう。
「……やはり、そうなるだろうな。…………はあ、困ったものだ……」
「……そうね、あなた……」
「……そうですね……」
お父様もお母様も、もちろんわたしにとっても、アネッサは大切な家族です。一族内からは『追放』の声が以前から上がっておりそろそろ庇い切れなくなっていて、滅茶苦茶すると言うのなら流石にその選択を取らないといけないのですが、そうすればあの子は路頭に迷う羽目になってしまいます。
さりとてそうしなければお屋敷の中でますます好き放題するようになってしまいますし、いつまでも放置していると一族内で揉め事が発生してしまう。
どちらを選んでも、悪い結果となってしまうのです。
「どうにか、アネッサに気付かせられるといいのだがな……」
「……難しいわね……」
お父様とお母様は幼い頃から何度も何度も、言い聞かせようとしてきました。ですがこの通り、何を言っても右耳から入って左耳から出ていってしまいます。
「我々がやってきたことは、無駄ではなかった。蓄積していて次の一回でようやく実を結ぶ、なんてことは……」
「ないでしょうね。まるでその兆しが見えないんだもの」
「……でも、もしかしたら……。非常に低い確率でしょうが、わたしが注意すれば上手くいくかもしれません」
家族全員が注意すれば、ますます腹を立てて聞く耳をもたなくなってしまう――。そう考えて、わたしは一度も苦言を呈していません。
初めての人が声にしたら、違う結果となる可能性はあります。
「余計に悪化するリスクもありますが、やってみる価値はあると思います」
いつまでも、あの子を庇えません。この機会に試すべきではないでしょうか?
「…………そうだな。エヴァネアに任せてみようか」
「もう他に方法もなさそうだものね。お願いするわ」
「承知しました。あの子が戻り次第行います」
アネッサがお茶会から戻るのは、1時間後の午後6時前後。その時まで使用人のみんなにも手伝ってもらってシミュレーションを行い、
「ただいま戻りましたわ」
ほぼ予定通りの6時7分に、あの子が帰ってきました。ですのでわたしは、お父様とお母様の期待を背負って歩き出し――
しばらく天井を眺めたあと。お母様、わたしの順に、お父様は視線を動かしました。
「わたくしは、NO。本気で言っているとは思えないわ」
「わたしもお母様と同意見です」
あの子が自ら貴族籍を――貴族としての生活を手放すとは到底思えません。出ていく、はこちらに対する脅しです。
「私もそう思っている。……ではミエナ、エヴァネア。『好きにしなさい』と返したら、あの子はどうすると思う?」
「…………出ていきはしないから……。お屋敷の中で、泣いて暴れるでしょうね……」
「…………そのあとはお父様とお母様、そしてわたしが困ることを考え、困らせてやろうと嬉々として実行するのでしょう……」
こんなにも悲しい思いをしているのだから、三人にも味わわせてあげますわ――。被害者意識全開で、そのように振る舞うでしょう。
「……やはり、そうなるだろうな。…………はあ、困ったものだ……」
「……そうね、あなた……」
「……そうですね……」
お父様もお母様も、もちろんわたしにとっても、アネッサは大切な家族です。一族内からは『追放』の声が以前から上がっておりそろそろ庇い切れなくなっていて、滅茶苦茶すると言うのなら流石にその選択を取らないといけないのですが、そうすればあの子は路頭に迷う羽目になってしまいます。
さりとてそうしなければお屋敷の中でますます好き放題するようになってしまいますし、いつまでも放置していると一族内で揉め事が発生してしまう。
どちらを選んでも、悪い結果となってしまうのです。
「どうにか、アネッサに気付かせられるといいのだがな……」
「……難しいわね……」
お父様とお母様は幼い頃から何度も何度も、言い聞かせようとしてきました。ですがこの通り、何を言っても右耳から入って左耳から出ていってしまいます。
「我々がやってきたことは、無駄ではなかった。蓄積していて次の一回でようやく実を結ぶ、なんてことは……」
「ないでしょうね。まるでその兆しが見えないんだもの」
「……でも、もしかしたら……。非常に低い確率でしょうが、わたしが注意すれば上手くいくかもしれません」
家族全員が注意すれば、ますます腹を立てて聞く耳をもたなくなってしまう――。そう考えて、わたしは一度も苦言を呈していません。
初めての人が声にしたら、違う結果となる可能性はあります。
「余計に悪化するリスクもありますが、やってみる価値はあると思います」
いつまでも、あの子を庇えません。この機会に試すべきではないでしょうか?
「…………そうだな。エヴァネアに任せてみようか」
「もう他に方法もなさそうだものね。お願いするわ」
「承知しました。あの子が戻り次第行います」
アネッサがお茶会から戻るのは、1時間後の午後6時前後。その時まで使用人のみんなにも手伝ってもらってシミュレーションを行い、
「ただいま戻りましたわ」
ほぼ予定通りの6時7分に、あの子が帰ってきました。ですのでわたしは、お父様とお母様の期待を背負って歩き出し――
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