私が幼馴染の婚約者と浮気をしていた？ そんな事実はないのですが？

第13話 マリアス・ジュレイアル様 クレア視点

　マリアス・ジュレイアル様。私の恩人であり、私が気になっている人。
　この方は、本当に不思議な方だった。

『俺が気付いていないだけで、クレア様には意中の人がいるかもしれない。その際は弊害が生じないようにするから、安心して欲しい』

　それによってご自身の名前に傷がついてしまうのに、まるで気にされない。それは摂理であるかのように、さらりと言えてしまう。
　そんな方と出会ったのは、初めてのことだった。


　マリアス・ジュレイアル様。
　この方は、本当に不思議な方だった。

『裁判などは残っていますが、マリアス様のご助力によって脅威は去りましたので。教えてください。私が知らない貴方様を、貴方様の全てを、お教えください』
『喜んで。そんなにも熱を込めてもらえて、光栄だよ』

　そうして私達は頻繁に会うようになり、お茶をしたりお出かけしたり――。様々な時間を共有し、それによって様々な情報を得た。

　――詳しく知るということ。それは大きなリスクを伴うもの――。

　共にする時間が多くなれば、おのずと『陰』が見えてしまう。その人の悪い部分が見えてしまうもの。
　なのに――。
　マリアス様には、そんなものが一切なかった。
　もちろん貴族であり嫡男、いずれ侯爵家の当主となられる御方なのだから、世渡りや計略に関する一面はお持ち。けれどそれ以外では――私と接してくださっている時は、他意が一切ない。

　今この目に映っている姿。今この耳で聞いている言葉。
　それらが全て、混じりっけなしの本物。

　誠実と真摯という言葉が具現化したような、真っ白で真っすぐな御方。
　そんな方と出会ったのは、初めてのことだった。


　だから――

『マリアス様？　口元を押さえられていますが、どうされたのですが？』
『ああごめん、体調不良ではないよ。こうして好きな人に自分のことを伝えていって、それを好きな人が喜んで聞いてくれている。それが幸せで、にやけが止まらないんだよ』

　そう知った時は、顔が真っ赤になってしまうほどに嬉しくなって。

『ご覧になって。マリアス様とクレア様ですわ』
『まあ。絵になるお二人ですわねぇ』

　学院で食事をご一緒していた際。そんなお声をいただいたら、嬉しくてたまらなくなって。

『……今日は、お会えないのですね。残念です』

　お家の都合でお会いできない時は、自然とこんな言葉が零れ、

『マリアス様!?　今日は多忙のはずでは……!?』
『ずっと日曜日は、会っていたよね？　どうしてもクレア様に会いたくなって、急いで用事を終わらせてきたんだよ』

　予定外にお会いできると分かったら、あっという間に心の中が快晴に変わってしまう。


　だから。だから私は――