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プロローグ キャロライン・サンオーレア視点
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「お嬢様、おはようございます」
「おはよう、ザラ。………………はぁ」
一日の始まりとなる、朝。自室で目を覚まして侍女に挨拶をしたわたしは、いつものように天井に向けてため息をついた。
以前までは『今日も一日頑張りましょう』だった、朝の二言目。それがこんな辛気臭いものになっているのは、今から5か月前に起きた『事件』が大きく関係している。
『…………キャロライン、済まない……。お前は別の人間と婚約し、結婚をしなければならなくなってしまった……』
わたしはお父様の旧友の息子であり幼馴染である、サパレルラ子爵家の嫡男デイヴィッドと結婚する予定だった。それ自体は政略的なものだったけれどわたし達はずっと仲が良く、お互いにその決定を心から喜んでいて、必要な準備がほぼ済んでもうすぐ正式に婚約を交わすはずだった。
けれど――。
フェルオ伯爵家の嫡男、ウィリアム様。彼が3年間の留学を終えてこの国に戻って来たことで、状況は一変してしまうことになる。
『お前があのキャロラインだって!? ……へぇ、俺好みのいい女になったじゃないか』
『……決めた。お前を俺の妻にする』
ウチ――サンオーレア子爵家は祖父がフェルオ家に嵌められて事業に大失敗し、それによって元凶であるフェルオ家に多額の借金をする羽目になっていた。そういった関係でわたし達は面識があったのだけれど、久しぶりにお会いした際にいたく気に入られてしまった。
その結果強引に関係を迫られ、お父様が拒否をしてくださったものの、借金関係の弱みをチラつかせられて……。断ると『家』が致命傷を受けてしまうため、3か月前に婚約を結ぶことになってしまったのだった。
「貴族に生まれたからには、愛のない結婚は覚悟していたけれど……。はぁ……。これは予想以上だわ」
ウィリアム様は格上には媚びに媚びてその鬱憤を格下で晴らすという、典型的な最低な性格の持ち主。加えてあの人はわたしの容姿にしか興味がなく、まるでわたしを『物』のように扱ってくる。
醜い性格の持ち主の傍に居続けないといけないし、いずれ老化によって外見に変化が出始めたら、十中八九ポンと捨てられてしまう。
「デイヴィットとの関係を絶たれるし、デイヴィットには罪悪感を抱かせてしまうし、ウィリアム様との生活は苦労と破綻が確定してしまっているし……。最悪のオンパレードね」
そんな状況なのだから、こうならずにはいられない。マイナス思考は周りにも迷惑をかけると承知しているけれど、どうしてもこうなってしまうのよね。
「……とはいえ、いつまでも嘆いていてもしょうがないわね。ひとつだけは良いことがあるんだし、前を向いて生きていきましょうか――っっ!?」
わたしがあちらに従っていれば借金問題は大事にならず、『家』は無事でいられる。領民や領地を守れるのだから、まだマシよね。
そう思っていたら突然ものすごい勢いで扉がノックされて、お父様が大声で何度もわたしの名前を呼び始めた。
「お、お嬢様……。ただ事ではありませんね……」
「え、ええ。わたしが開けに行くわ」
急いでベッドから降りてスリッパを履き、大急ぎで室内を縦断してドアを開ける。そうしたら、血相を変えたお父様が立っていて――
「たった今急にフェルオ卿とウィリアム殿がいらっしゃってなっ! 大事な話をするからお前を呼んで来いと仰っているのだよ!!」
――そんなお父様は一切の息継ぎなしで、予想外なことを口にされた。
お二人がいらっしゃる予定はなかったし、大事な話に思い当たる節はまったくない。こんなことは初めてで……。どうされたのかしら……?
「おはよう、ザラ。………………はぁ」
一日の始まりとなる、朝。自室で目を覚まして侍女に挨拶をしたわたしは、いつものように天井に向けてため息をついた。
以前までは『今日も一日頑張りましょう』だった、朝の二言目。それがこんな辛気臭いものになっているのは、今から5か月前に起きた『事件』が大きく関係している。
『…………キャロライン、済まない……。お前は別の人間と婚約し、結婚をしなければならなくなってしまった……』
わたしはお父様の旧友の息子であり幼馴染である、サパレルラ子爵家の嫡男デイヴィッドと結婚する予定だった。それ自体は政略的なものだったけれどわたし達はずっと仲が良く、お互いにその決定を心から喜んでいて、必要な準備がほぼ済んでもうすぐ正式に婚約を交わすはずだった。
けれど――。
フェルオ伯爵家の嫡男、ウィリアム様。彼が3年間の留学を終えてこの国に戻って来たことで、状況は一変してしまうことになる。
『お前があのキャロラインだって!? ……へぇ、俺好みのいい女になったじゃないか』
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その結果強引に関係を迫られ、お父様が拒否をしてくださったものの、借金関係の弱みをチラつかせられて……。断ると『家』が致命傷を受けてしまうため、3か月前に婚約を結ぶことになってしまったのだった。
「貴族に生まれたからには、愛のない結婚は覚悟していたけれど……。はぁ……。これは予想以上だわ」
ウィリアム様は格上には媚びに媚びてその鬱憤を格下で晴らすという、典型的な最低な性格の持ち主。加えてあの人はわたしの容姿にしか興味がなく、まるでわたしを『物』のように扱ってくる。
醜い性格の持ち主の傍に居続けないといけないし、いずれ老化によって外見に変化が出始めたら、十中八九ポンと捨てられてしまう。
「デイヴィットとの関係を絶たれるし、デイヴィットには罪悪感を抱かせてしまうし、ウィリアム様との生活は苦労と破綻が確定してしまっているし……。最悪のオンパレードね」
そんな状況なのだから、こうならずにはいられない。マイナス思考は周りにも迷惑をかけると承知しているけれど、どうしてもこうなってしまうのよね。
「……とはいえ、いつまでも嘆いていてもしょうがないわね。ひとつだけは良いことがあるんだし、前を向いて生きていきましょうか――っっ!?」
わたしがあちらに従っていれば借金問題は大事にならず、『家』は無事でいられる。領民や領地を守れるのだから、まだマシよね。
そう思っていたら突然ものすごい勢いで扉がノックされて、お父様が大声で何度もわたしの名前を呼び始めた。
「お、お嬢様……。ただ事ではありませんね……」
「え、ええ。わたしが開けに行くわ」
急いでベッドから降りてスリッパを履き、大急ぎで室内を縦断してドアを開ける。そうしたら、血相を変えたお父様が立っていて――
「たった今急にフェルオ卿とウィリアム殿がいらっしゃってなっ! 大事な話をするからお前を呼んで来いと仰っているのだよ!!」
――そんなお父様は一切の息継ぎなしで、予想外なことを口にされた。
お二人がいらっしゃる予定はなかったし、大事な話に思い当たる節はまったくない。こんなことは初めてで……。どうされたのかしら……?
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******
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