初恋の人を思い出して辛いから、俺の前で声を出すなと言われました

柚木ゆず

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プロローグ 喋りたくても喋れないわたし シャルリー・マトート視点

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 わたしマトート子爵令嬢シャルリーは2年半前に、レロッズ伯爵家の嫡男エタン様と政略的な婚約を交わしました。
 そんなエタン様とわたしは共に『王立・サンテーラス学院』の2回生で、A組とB組でクラスは違うものの教室が隣同士なためお顔を合わせる機会が多い。だから――

「シャルリー、ちょうどいいところに居てくれた。明後日出席するパーティーの件で話があるんだ」

 ――こんな風にお声を駆けられることがあるのだけど……。

「………………」《コクリ》

 わたしの反応は、いつもこんな感じ。

『君のお父上は、赤よりも白ワインが好きだったと記憶している。合っているね?』
『………………』《コクリ》

『明後日の休みは、両家で食事会をする予定となったらしい。これがスケジュール、目を通しておいてね』
「………………」《コクリ》

 どんな質問でもどんな場所でもどんな時でも、無言で返事。イエスかノーかで答えられる時は首を動かして意思をお伝えして、それ以外の時は携帯している手帳に文字を書いてお伝えするのです。

「ここは人気(ひとけ)がある。こっちで話そうか」
「………………」《コクリ》

 なぜこんなことをしているのかというと、わたしが無口だから――ではありません。エタン様と婚約を交わした際に、

『俺の前で声を出すな!!』

 そう命じられているからなのです。

『こ、こえを……!?』
『一度だけ教えてやる。お前の声は、ミーア姉(ねえ)さんそのものなんだ』

 エタン様にはミーア・ロレット様という4歳年上の幼馴染がいらっしゃって、その方に密かに恋をされていたそうです。しかしながらそんな初恋の人・ロレット様は、エタン様が14歳の頃に――今から3年前に隣国の方と婚約をされて、わたし達が婚約を交わす少し前に嫁がれてしまった。

 大好きな人と一緒になれなかった上に会えなくなり、大きな大きなショックを受けてしまった。

 辛い過去を思い出してしまうため、エタン様はそのように仰っていたのです。

『え、エタン殿……。それはあまりにも娘が……』
『卿、そちらの立場を考えて発言していただきたい』
『私は、息子の意思を尊重する。どういうことか分かるな?』
『…………も、申し訳ございません……』

 こちらは子爵家で、あちらは伯爵家。圧倒的にウチの方が弱いためわたしは勿論のことお父様やお母様も強く出ることができず、その日から理不尽な要求に従わないといけなくなってしまったのです。

((……はぁ、辛いな……))

 喉の病気になって声を出せなくなってしまった――。どんな場面でもわたしの声を聞かなくて済むように、かつ、突然の無言が不自然にならないようにそう公表するよう言われていて、そのせいで人前で話すことができない。
 学院にいると朝から夕方まで言葉を発せないため早く卒業したいと思わずにはいられないのだけれど、そうしたら結婚が待っている。今まで以上に話せなくなる日々が始まってしまうので、入学してからずっと心の中でのため息が定番になってしまっているのです。

((……はぁ、どうにかならないかな……? なるはずがない、よね……))

 今日もわたしは、心の中でガックリと肩を落しながら生きていた――のですが、その時のわたしは知りませんでした。


 まさか、そんな人生が一変することになるだなんて――。


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