こちら、付喪神対策局

柚木ゆず

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第4話 付喪神・鏡

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「…………ひいお爺、さん?」

 それは、今から12年前。冬馬がまだ13歳だった頃。お正月に父方の実家を訪れていた冬馬は、敷地内にある蔵の中で見覚えのある人の姿を目にしました。

「ううん、そんなはずはない。だってひいお爺さんは、もうこの世にはいないから」

 その人・正(ただし)は天寿を全うし、8年前に109歳で天へと旅立っていました。
 おんなじだけど、おんなじではない。
 別人だと気付いた冬馬は、すぐにもう一つの『あること』に気付きます。

「……貴方は、人間ではないよね? 誰なんですか?」

 冬馬は物心ついた時から幽霊に干渉することができ、よく見ている幽霊とはどこか違うものの、ソレに似た気配を感じた。強い霊感がある故に霊の類に恐怖を覚えない冬馬は、表情や声調を変えることなく首を傾けました。

「…………分かりません」
「え……? 分からない……?」
「なにも、分からないんです。自分が何者で、なぜここにいるのかも。……忘れてしまったのか、そもそも何も知らないのか。それさえも分からないのですよ」

 幸いにも鏡が記憶を失ってしまったのは、僅か10分前。そのため理性が残っており、問題なく意思疎通が図れました。

「貴方の発言から、少なくとも貴方と同類ではないと理解しました。貴方の知識を用いて、私の正体を推測できないでしょうか?」
「ごめんなさい、こんな経験初めてで僕もさっぱりなんです。ただ」
「ただ……?」
「貴方が大事そうに持っているその手鏡は、ひいお爺さんの遺品なんです。そして貴方の姿は、ひいお爺さんと同じ。もしかすると、ひいお爺さんに何かしらの縁があるのかもしれない」

 記憶を失ってしまった、幽霊となったひいお爺さんではない。第六感でそう認識していた冬馬は木製の手鏡を見つめ、そのあと――。右手を差し出しました。

「? ??」
「こうして出会ったのも何かの縁だし、『答え』を探すのを手伝いますよ。一緒に見つけましょう」

 零体は人間や物に自由に接触できないし、声だって届かない。情報を集めたくても満足に集められない。
 自分ならそれらが可能だし、なにより、話し相手になれる。
 そんな理由で冬馬は提案し、

「よろしい、のですか……?」
「もちろん。僕は、神宮寺冬馬っていいます。よろしくお願いします、ええと……」
「今の私には、名前がありません。冬馬、よろしければ名付けてくださりませんか?」
「んーと~。じゃあ………………鏡さん。月夜見鏡さん」
「つくよみ、きょう……」
「鏡に関しているから鏡(きょう)。空には綺麗な月が出ているから、月の神の月夜見。それを合わせて月夜見鏡。どうかな?」
「素敵、だと感じています。では今日から、月夜見鏡を名乗らせていただきますね」
「うん。よろしくね、鏡さん」

 こうして2人は共に行動をし始めたのでした――。



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