殿下、妃殿下。貴方がたに言われた通り、前世の怨みを晴らしに来ましたよ

柚木ゆず

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「? どうされましたか?」
「カウスズ様っ、質問がありますっ。『急げ』『間に合わなくなる』と感じ始めたのは、数時間前と仰いましたよねっ? 具体的には、何時ごろなのですかっ?」

 あることに気付いた私は、距離を詰めてお顔を見上げる。
 もしかして……。午後7時過ぎ、ではありませんか?

「あの時は時計が近くあって、細かく覚えています。午後の7時、9分でした」

 やっぱり……。予想通り。
 その時間は、私がこの作戦を決めた時間。心の中が闇一色になって、ぷつんと『切れて』しまった時間だ。

「……私はその時に復讐心で完全に染まり、喜んでこの身を犠牲にしようとしていました……。目的を果たす為、望まない相手と一晩を過ごす決意をしました……。その『急げ』『間に合わなくなる』『救え』は、このことを指しているんだと思います」
「どうやら、そのようですね……。だとしたら――。今までにあった訴えも、貴方が関係している可能性が高いですね」
「本能は、他にもあったのですかっ!? 何があったのですかっ!?」
「『上を目指せ』『貪欲に地位を手に入れろ』。『約束を、違えないように』『今度こそ、守り抜けるように』。物心ついた時から身体がそう求めていて、なぜか必ずそうしなければならないと感じていました。僕が今の立ち位置にいるのは、こういったものがあったからなのですよ」
「………………。………………」

 それを聞いて、あの時の出来事が蘇った。

『ふふふ、残念だったなヴィクトル。俺は、弟を過小評価しない。王太子の力を使って、しっかりと保険を用意していたのだよ』

『僕は婚約する時に、幸せにすると誓った……っ。でも、守れなかった、から……っ。もし、もしも……っ。許されるのならば……っ。来世があるのならば――』

 その言葉があの日の悲劇に対するものだと感じるのは、希望的観測?
 ううん、そうじゃない。
 この本能は、前世の感情。つまり……っ。つまり……っっ。ライナス・カウスズ様は――

 ヴィクトル・ハマン様。

 あの日離れ離れになってしまった、私が愛する人!!

「っ!? どうされたのですかっ!? 配慮不足がありましたでしょうか……っ?」
「いえ、違うん、です……っ。この涙は、嬉し涙、なん、ですよ……っっ。最愛の人に巡り逢えて、幸せ、なんです……っ」

 大粒の涙を零しながら、説明をさせてもらった。

 私はあの悪名高いミリヤ・アリネスの生まれ変わりで、貴方はヴィクトル・ハマンの生まれ変わり。
 ロドリグ達に嵌められ、私達は無実の罪で処刑された。
 私は来世で2人に復讐をするため、貴方は今度こそ約束を果たすため、この世界に生まれてきた。

 これが、私達の関係。私達の身に、起きていることなんです。

「私には当時の王族に関する知識がありますし、一般には公開されていない処刑場のつくりも把握しています。荒唐無稽な内容ですが、全て事実なのですよ」
「………………………うん、そうだね。間違いなく僕はヴィクトルで、君はミリーだ」

 !
 今……。私の名前を、ミリーって……っ。

「君の詳説を聞いていたら、当時の記憶が蘇ってきたんだよ。涙してくれる君がいて、なのに僕は無力で何もできなかった……。あの時の悔しさ情けなさ、ミリーへの想いを、ハッキリと思い出したんだよ」

 カウスズ様も涙を浮かべ、優しく強く抱き締められる――昔ヴィクトル様がしてくれていたように、抱き締められる。
 ……思い返せば私も、当時の出来事に触れて覚醒した……っ。だから、これが覚醒の切っ掛けで……。私は……っ。私達は……っ。
 心も身体も、また出逢えたのですね・・・・……っっ。

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