上 下
26 / 38

第14話 戻ってきた影たち アルチュール視点

しおりを挟む

「今日という日に、乾杯」

 夜空に丸々と浮かび上がる、満月。自室の窓から絶景を見上げ、俺は軽快にグラスを傾けていた。
 現在は午前2時7分。あちらでは、アリスの確保が済んでいる時間。そこでまずは、確保成功を祝っていたのだ。

「…………ふふ。勝利の美酒は格別だな」

 1本120万ルーベルの高級ワインが、いつもよりも更に美味く感じる。やはり勝利を祝う酒は、喉の通りがまるで違う。

「この段階で、この美味さだ。屈服させたあとに――有能な駒を手に入れたあとで飲む美酒は、どれほどの味となるのだろうな」

 オーレリアン、だったか。あの男のせいで心は奪えなかったものの、頭が良く顔もいい女が手に入るんだ。さぞや美味いものとなるに違いない。

「我が商会を更なる高みへと押し上げる、商業のブレイン。到着と、調教が楽しみだ」

 この俺に無駄な努力をさせ、エプリスヒの森では恥をかかせたんだ。その分も含め、しっかりと仕込んでやる。

「俺はアブノーマルじゃない、ノーマルな人間だ。主従的な愛は興味がないが、まあいいだろう。それも一興だ」

 そうして俺はワインを傾けながら調教内容を考え、長針が3回ほど回った頃だろうか。背後――扉が恭しくノックされた。
 ははは。ようやく、ご到着・・・のようだ。

「すぐに向かう。とりあえずアリスは、エントランスで跪かせておけ――おい! 誰が開けていいと言った!!」

 立ち上がっていると扉が勝手に開き、そこではルイと影の3人が並んでいた。
 コイツらは、いつの間に常識をなくしてしまったんだ? 主の許可なく無断で開けるなど、言語道断で――ん?

「おい。お前達、どうした?」

 睨みつけていると、あることに気が付いた。4人の顔は真っ青になっていて、体はプルプルと震えているのだ。

「「「「…………。…………」」」」」
「おいっ、主が聞いているんだぞ!! 誰もいい! 早く答えないか――…………」

 歩み寄ろうとしていた俺もまた、ヤツらのようになってしまう。
 な、なぜだ……? どうなっているんだ……?
 どうして、4人の背後には――

「こんばんは――もう夜が明けるので、違いますね。おはようございます。お久しぶりです、ファズエルス様」
「数時間前は珍しい体験ができました。感謝いたします、アルチュール様」

 オーレリアンとアリスが、平然と立っているんだ……!?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

伯爵様は色々と不器用なのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:132,260pt お気に入り:2,669

大好きなあなたを忘れる方法

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7,804pt お気に入り:1,011

理不尽に嫉妬された令嬢と嫉妬した令嬢の、その後

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:565

夫の愛人が訪ねてきました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:58,353pt お気に入り:746

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:497

処理中です...