あこがれチェンジ!

柚木ゆず

文字の大きさ
48 / 68

13 あたし達が、解決? (2)

しおりを挟む
「映画を観ていたら、僕の理想通りの主人公が大活躍して……。僕もああいう風になりたいって、強く思って……。そのことばかり考えていたらもう一人の僕が現れて、はいと返事をしました……」

 トラヒコくんは頭を下げたまま、お口を動かす。

「あの時の僕は、世界が変わると思って返事をしました……。けれど実際は、そんな事はなかった……」
「「…………」」
「確かに変わりはしたんだけど、それは悪い方にだった。自分のせいで多くの人に、なかでもキミには危ない目にあわせてしまった……」

 まだ頭を下げたままで、トラヒコくんの声が震える。
 あたしは平気だから大丈夫ってお声をかけたいけど、今はごめんなさいをしたい時。こーゆー時は相手の人が言いたいコトを言い終わってからお話する方が、いいよね。

「……僕は今、自分の行動を酷く後悔しています。キミ、キミ達、転ばせてしまったあの男の子、あの場にいた警備員さん、ショッピングモールの関係者さん、父さん、母さん……。色んな人に迷惑をかけたと、悔やんでいます……」
「「…………」」
「だから、あの判断も後悔していて……。あんなの、勇気じゃなくって……。そんなことも分からない自分なんて、ダメで……。もちろんあっちの自分よりダメなところは山ほどあるんだけど、以前の内気な自分でもいいと……。キミと関わって…………自分の足で進んで、成長していかないと意味がないって思うようになりました。それになにより本物の自分でちゃんと、迷惑をかけた人全員に謝りたいと思ってます」

 トラヒコくんがそう口にしたら、ふわり。体が光りはじめて、もとに戻れるようになっちゃった!

「ふやぁ、もう解除できたんだぁ。嬉しいコトだけど、とってもはやいからビックリだよっ」
「命が関わる経験をして、貴方が命をかけて必死に動いてくれたんだもの。速やかに済むのは当然で、全て陽上さんのおかげよ」
「はい、そうですね。あっちの僕も、キミにとても感謝してました」

 トラヒコくんはモミジちゃんに大きく頷いて、あたしを見つめる。

「あの時僕は、もう助からないと思いました。あんな状況で、助けようとしてくれる人がいるとは思いませんでした」
「あたしもね、気が付いたら動いてたんだー。お気になさらずに、だよっ」
「……キミは本当に、優しい人ですね。そんなキミに酷い迷惑をかけてしまい、改めてごめんなさい。あの時助けてくれて、本当にありがとうございました……!」

 トラヒコくんは何度も何度も頭を下げてくれて、ここでお時間。あたしが振った手に振り返してくれて、幸せそうに消えた。

「ふにゅぅ。アコヘン問題、無事解決だねっ」
「彼はいい顔をしていて、自分なりに答えも出せたようね。……入る前から説得しやすいとは思っていたけど、まさかここまでとはね……」

 にこやかにお返事をしてくれてたモミジちゃんは、途中で少し下を向いた。
 ふにゃ? またボソボソになって、聞き取れないなぁ。

「……あのような性格に、なってしまう……あんな性格を経験してしまったら……。酷く失敗しても、『あんな風にできるなんてすごい』『今回は少しやりすぎただけで、次は大丈夫』『今の性格がやっぱり一番』と言い張って考え直しはしないものなのに……。やはり、陽上さんはすごいわ……」
「?? モミジちゃん? どーしたの、かな?」
「ごめんなさい。少し、今後の予定を考えていたの」

 モミジちゃんはお顔をこっちに向け直して、トラヒコくんがいた場所を見つめた。
 よてい? 予定って、なんだろー?

「このままだと彼はお店に強く叱られ、今後立ち入り禁止になってしまう。だから父や祖父に頼んで、色々誤魔化してもらわないといけないの」
「ぁそっか、そーだよね。上手くいきそー、かな?」
「こういう時のために日々動いていて、問題ないわ。けれど私も関係者として手伝わないといけないから、午後は一緒に買い物をできなくなるの」

 モミジちゃんは、月下家さんの人。しょうがない、よね。

「陽上さんは私に気にせず、休日を楽しんで頂戴。風松さんの為にも、そうしてくれた方が嬉しいわ」
「………………ん、わかりました、だよ。そーしときます」

 モミジちゃんが望むなら、あたしたちは遊ぶよーにする。
 でも、予定外の遊びも追加。モミジちゃんへのプレゼントを買って、明日お渡ししに行こー。

「??? 陽上さん、ニコニコしてどうしたの?」
「あたしのほーも、なんでもないよー。残りのお仕事も、頑張ってね」
「ええ、ありがとう。今日は貴方達と過ごせて楽しかったわ」

 そんな風に喋っている間にもとの世界に戻って、ここでモミジちゃんとはお別れ。
 モミジちゃんはスマホでパパさんたちに連絡を始めて、あたしとユーカとユーナはお店巡りを始めたのでした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

見える私と聞こえる転校生

柚木ゆず
児童書・童話
「この中に、幽霊が見える人はいませんか?」  幽霊が見える中学1年生の少女・市川真鈴のクラスに転校生としてやって来た、水前寺良平。彼のそんな一言が切っ掛けとなり、真鈴は良平と共に人助けならぬ幽霊助けをすることになるのでした――。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

処理中です...