貴方は人を愛せなくなっていたはずですよね?

柚木ゆず

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第9話 異常事態 俯瞰視点(1)

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「っ、どうしたのですか!? なにがあ――」
「私は夢を見ているんだよな!? そう言ってくれ!!」
「わたくしは夢を見ているのよね!? ね!? 夢だと言って頂戴!!」

 突然部屋に飛び込んで来た父ロークと母アヌークは、顔面蒼白でジョルロアに縋りつきました。

「ゆ、ゆめ……!? どっ、どういうことなんです!? 夢が――」
「ゆめ!! は、ははははは!! やはりそうだったのだな!! これは夢なのだ!!」
「あはははははははは!! ほらねっ、思った通りだったわ!! ぜんぶ何もかも夢だったのよ!!」
「…………………………」

 夢というワードを勝手に拾って、勝手に大喜びする。ふたりの異様な姿に、ジョルロアはたまらず言葉を失いました。

「おかしいと思ったのだ!! あり得ないことだからな!! ようやく納得できた!!」
「まったく、なんて意地の悪い夢なのかしら!! 心臓が止まるかと思ったわ!!」
「「あはははははははは!! あはははははははははははははははははははは!! ぎゃはははははははははははははははは!!」」
「ち、ちち、うえ……はは、うえ……。ど、どうしてしまったのですか!? おっ、教えてください!! なにがあったんです!?」

 目を見開き、嬉し涙とよだれを零しながら大口を開けて大笑いする――。ますます様子がおかしくなっていく2人の肩を左右の手で掴み、順に顔を覗き込みました。

「なにがあった? 決まっているじゃないか! 夢だと分かったのだよ!!」
「そうなのよ!! 眠りから覚めれば全部ないことが分かったの!! どうなることかと思ったわ!!」
「そっ、そうではありません! 俺は夢について言っているんです! 父上も母上もっ、どうして急に夢を見ている云々と叫び始めたのですか!? こちらはまったく事情が分からなくてっ、ちゃんと分かるように教えてください!!」

 できる限りハッキリとした口調で、丁寧に説明を求める。そうすると――

「ありがとうなぁジョルロア!! お前は救世主だ!!」
「貴方が夢だと断言してくれたおかげで夢だと確信を持てたわ!! ありがとうジョルロア!! 素晴らしい!! 貴方は自慢の息子よぉ!!」
「父上母上!! ちゃんと俺の質問に答えてください!! なぜ、夢を見ていると聞いてくるのですか!? 教えてくださ――」
「やったあぁああああああああ!! やったぁあああああああああああああああああああああああ!! あんなこと、なかったんだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「よかったぁああああああああ!! 現実には起きていないのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「「あはははははははは!! ははははは!! ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは――ぴ。ぶぶぶぶぶ…………」」

 興奮のし過ぎ、が原因なのでしょう。満面の笑みを浮かべていたふたりは突然口から泡を吹き出し、そのまま真後ろにバタンと倒れてしまったのでした。

「…………父上、母上――駄目だ、気を失っている……。なら……!!」

 他の者に、聞くしかない。ジョルロアは脂汗を浮かべながら部屋を飛び出し、人の気配を感じる一階へと大急ぎで走り――

 ようやく、異常事態が起きていることを知るのでした。


「な、なんで……。こんなにも人が集まっているんだ!?」


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