もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず

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プロローグ アンナ視点

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「アンナ、ロマニ様からお手紙が届いたぞ。よかったな」
「はいっ。お父様、ありがとうございます」

 朝食を摂ったあと自室で読書を始めて、ちょうど一冊を読み終えた頃でした。パスカーお父様がノックと共にいらっしゃられ、私ははにかみながら封筒を受け取りました。

 レルザー侯爵家のロマニ様。

 今胸に抱いているお手紙の差出人は、私の婚約者様なんです。
 この恋の始まりは、およそ2年前――学院の2回生だった時のことでした。入学時から学内で『優秀』『人格者』な双子として有名だった、ロマニ様と弟のダヴィッド様。そんなお二人はその年の生徒会メンバーに選ばれ――副会長と会長に選ばれ、私はその際に書記として選出されました。
 そうして同じ時を過ごす機会が増えて、必然的に更にお互いを知っていって。今から半年前――卒業式の日にロマニ様からプロポーズのお言葉をいただいて、私はこの方の婚約者になっていたのです。

「ロマニ様からお手紙が届いたんですって? 有難いことよね、アンナ」
「ええ。私は幸せ者です」

 続いていらっしゃられた、レテアお母様。お母様の笑顔に向けて、私は大きな頷きをお返ししました。

『すまないな、アンナ。屋敷内外で片づけなければならないものが多く、暫くの間会えなくなりそうだ』

 ロマニ様は侯爵家の長男、いずれ侯爵となる方です。そのため最近はますます多忙となり、先月からお会いする機会はなくなってしまいました。
 ですが私ができるだけ寂しい思いをしなくて済むようにと、お忙しい中こうして定期的にお手紙を送ってくださっているのです。

「……ロマニ様、いつもありがとうございます。今日はどんなことが、書かれているのでしょうか」
「楽しみだな。ゆっくり読むといい」
「うふふ。幸せな時間を過ごしてね」
「はいっ。そうさせていただきます」

 再び、お父様とお母様に笑顔をお返しします。そうして私はデスクに移動して清潔感のある真白の封筒を開封し、ピンク色の便箋を読み始めます。
 そうすると――

《親愛なるアニーへ》

 あれ……? 先頭には、そんな文字がありました。
 私はアンナ・リロレット。アニーではありません。

「? どうして、アニーとなって――あ、何かの理由で書き間違えられているのですね」

 首を傾げていた私はそう結論を出し、続きを読んでゆきます。
 ……ですが……。
 まもなくその結論は、大きな間違いだったと痛感する羽目になります。なぜなら――

《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》

 そう、記されていたのですから。

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