2 / 33
第1話 書き間違えではなかった アンナ視点
しおりを挟む
「レテア……。これは……」
「ええ……。受け入れたくないけれど、そうせざるを得ないわ……。あの方は、アニーという女性に心変わりをされている……」
こちらのお手紙はレルザー侯爵家の方が、ここ――リロレット伯爵邸へと直接届けてくださりました。そのため差出人は間違いなく、ロマニ様となっています。
ですのでお手紙をお見せするや、お父様とお母様は執務室の天井を仰ぎました。
「『親愛なるアニー』、それは書き間違えじゃない……。別人に、宛てたものだったのね……」
「何かしらの手違いによって、手紙が入れ替わってしまったようですね。ですが――いえ、なんでもありません。お父様、お母様。こういった場合は、どういった行動が適当なのでしょうか?」
気になる点がありましたが、そちらよりも大事なことがあります。ですので私は、お二人を交互に見つめました。
貴族の婚約は家と家の問題であるため、この家のトップである当主夫妻――お父様とお母様の判断を仰がなければなりません。こういった場合は、どう動くべきなのでしょうか。
「そうだな……。幸いにもロマニの父は、反故や裏切りを嫌う御方だ。この証拠を持って――、その前にアンナよ。お前の心は、大丈夫なのか?」
「裏切りをこんな形で知って、ショックでしょう? こういったお話は一旦置いておいて、少し休んではどうかしら?」
「お父様お母様、お気遣いありがとうございます。問題はありませんので、どうぞ続けてください」
私は幼い頃から喜怒哀楽の『哀』に、不思議なくらい耐性のようなものがありました。
ずっとロマニ様を愛していましたので、この事実は大きな落胆をもたらしています。ですがそういった性質があるため、悲しみはあるものの平常心を保っていられます。
そしてさっき口にしかけていたように、この一件には気になる点があります。そちらを解明したい気持ちもあって、このお話を続けることにしました。
「うむ、分かった。この手紙を持ってレルザー卿を訪ねれば、こちらが満足する対応を得られるはずだ」
「……アンナ。ロマニ様との関係を維持するつもりは、ないわよね?」
「はい。そういった感情は、一切ありません」
心が狭いのかもしれませんが――。恋に関する裏切りは、2度目はないという考えを持っています。ですので即座に首を、左右へと動かしました。
「それを聞けて、親としても安心したわ。あなた」
「ああ、この子を連れて話しをしてくる。アンナ、外出の支度を――」
「旦那様っ! 至急お伝えしたいことがございますっ‼」
「――ん? なんだ?」
執務室のドアが速いテンポでノックされ、扉を開けると家令がいらっしゃりました。
この方は『老紳士』の異名を持つ、いつも落ち着いている方なのに。どうされたのでしょうか?
「お前らしくないな。どうしたいうのだ?」
「わ、わたくしには皆目見当がつかないのでございますが……。レルザー侯爵家の双子の弟が、いらっしゃられまして……。『婚約を破棄される問題について――兄からの手紙について、大事なお話がございます』と仰られたのでございますっ!」
「ええ……。受け入れたくないけれど、そうせざるを得ないわ……。あの方は、アニーという女性に心変わりをされている……」
こちらのお手紙はレルザー侯爵家の方が、ここ――リロレット伯爵邸へと直接届けてくださりました。そのため差出人は間違いなく、ロマニ様となっています。
ですのでお手紙をお見せするや、お父様とお母様は執務室の天井を仰ぎました。
「『親愛なるアニー』、それは書き間違えじゃない……。別人に、宛てたものだったのね……」
「何かしらの手違いによって、手紙が入れ替わってしまったようですね。ですが――いえ、なんでもありません。お父様、お母様。こういった場合は、どういった行動が適当なのでしょうか?」
気になる点がありましたが、そちらよりも大事なことがあります。ですので私は、お二人を交互に見つめました。
貴族の婚約は家と家の問題であるため、この家のトップである当主夫妻――お父様とお母様の判断を仰がなければなりません。こういった場合は、どう動くべきなのでしょうか。
「そうだな……。幸いにもロマニの父は、反故や裏切りを嫌う御方だ。この証拠を持って――、その前にアンナよ。お前の心は、大丈夫なのか?」
「裏切りをこんな形で知って、ショックでしょう? こういったお話は一旦置いておいて、少し休んではどうかしら?」
「お父様お母様、お気遣いありがとうございます。問題はありませんので、どうぞ続けてください」
私は幼い頃から喜怒哀楽の『哀』に、不思議なくらい耐性のようなものがありました。
ずっとロマニ様を愛していましたので、この事実は大きな落胆をもたらしています。ですがそういった性質があるため、悲しみはあるものの平常心を保っていられます。
そしてさっき口にしかけていたように、この一件には気になる点があります。そちらを解明したい気持ちもあって、このお話を続けることにしました。
「うむ、分かった。この手紙を持ってレルザー卿を訪ねれば、こちらが満足する対応を得られるはずだ」
「……アンナ。ロマニ様との関係を維持するつもりは、ないわよね?」
「はい。そういった感情は、一切ありません」
心が狭いのかもしれませんが――。恋に関する裏切りは、2度目はないという考えを持っています。ですので即座に首を、左右へと動かしました。
「それを聞けて、親としても安心したわ。あなた」
「ああ、この子を連れて話しをしてくる。アンナ、外出の支度を――」
「旦那様っ! 至急お伝えしたいことがございますっ‼」
「――ん? なんだ?」
執務室のドアが速いテンポでノックされ、扉を開けると家令がいらっしゃりました。
この方は『老紳士』の異名を持つ、いつも落ち着いている方なのに。どうされたのでしょうか?
「お前らしくないな。どうしたいうのだ?」
「わ、わたくしには皆目見当がつかないのでございますが……。レルザー侯爵家の双子の弟が、いらっしゃられまして……。『婚約を破棄される問題について――兄からの手紙について、大事なお話がございます』と仰られたのでございますっ!」
175
あなたにおすすめの小説
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。
王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。
友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。
仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。
書きながらなので、亀更新です。
どうにか完結に持って行きたい。
ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
[完結]だってあなたが望んだことでしょう?
青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。
アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。
やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー
他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。
第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。
その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。
ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。
私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
婚約破棄を謝っても、許す気はありません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私カルラは、ザノーク王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
ザノークの親友ルドノが、成績が上の私を憎み仕組んだようだ。
私が不正をしたという嘘を信じて婚約を破棄した後、ザノークとルドノは私を虐げてくる。
それを耐えながら準備した私の反撃を受けて、ザノークは今までのことを謝ろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる