もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず

文字の大きさ
13 / 33

第9話 弟~予想外の言葉~ ダヴィッド視点

しおりを挟む
「あちらもこちらも、予定通り進みました。したがって確実に、今日の夜会で状況をひっくり返せますよ」

 翌日――夜会当日の、正午過ぎ。僕は再びリロレット伯爵邸を訪れていて、応接室にてアンナ様に断言をした。
 前日クローゼット内にネックレスが隠され、その後色々とチェックを行ったものの、ロマニ及びアンナに想定外の動きはなかった。そのため明言をして、そうすると目の前では安堵の息が零れた。

「あのあとも、あちこちで動いてくださっていたのですね……。痛み入ります」
「本来こちらは必要のないもの、念には念の更にその上に念を重ねたものです。僕の性質による、勝手に行った行動ですので、お気になさらないでください」

 大きな計画を実行する際、直前に改めて熟考して安全性を確かめ、その結果突然大幅な調整を加える人が意外といる――。それは経験則によるもので、とはいえそういった人間は1パーセントにも満たなかった。
 なので自分でも杞憂だと感じていたものの、1パーセントが発生する時があるにはある。そこで、『あり得ないけれど』と思いながら行ったものだったのだ。

「これによって、全てが想定通りと確定しました。ですので、『兄ロマニにアニーが接触し被害を訴える、兄は信用する』、『大勢の前でアンナ様の罪を主張し始める』――。こういった流れとなりますので、愚兄たちによる3流ミュージカルにお付き合いください」
「はい、承知いたしました。……ダヴィッド様。今夜に関するお話は、以上でお仕舞となりましたよね?」
「ええ、そうですね。どうかされましたか?」

 この人がこういった確認を行うのは、珍しい。何かあったのだろうか?

「……実はダヴィッド様に、お伺いしたいことがあるのです。決行当日はできる限り、違うものに時間を割くべきではないのですが……。どうしても確認しておきたいことが生まれまして。おひとつ、お許し願えますでしょうか?」
「もちろんですよ。決行当日ではありますが、他に行うことは大してありませんので。どうぞ仰ってください」

 実際そうだから、すぐに笑みと頷きを返した。

 あのように理解されている上で、知得しておきたいこと。それは一体……?

 そう考えているとやがて、アンナ様の口が開き――。
 おもわず……。感情が昂ってしまう言葉が、やって来たのだった。

「ダヴィッド様。私達は、以前――学院に入るもっと前に、出会っていますよね?」

しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

婚約破棄を謝っても、許す気はありません

天宮有
恋愛
 侯爵令嬢の私カルラは、ザノーク王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。  ザノークの親友ルドノが、成績が上の私を憎み仕組んだようだ。  私が不正をしたという嘘を信じて婚約を破棄した後、ザノークとルドノは私を虐げてくる。  それを耐えながら準備した私の反撃を受けて、ザノークは今までのことを謝ろうとしていた。

婚約を破棄したいと言うのなら、私は愛することをやめます

天宮有
恋愛
 婚約者のザオードは「婚約を破棄したい」と言うと、私マリーがどんなことでもすると考えている。  家族も命令に従えとしか言わないから、私は愛することをやめて自由に生きることにした。

他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。    第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。  その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。  ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。  私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。

処理中です...