困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず

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第3話 変化と変化 アン視点(2)

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「なんだって!? 父さん、どういうことだ!? 全財産の半分近くって……。いったい何があったんだ!?」
「……………………」
「父さんっ! ねえ父さんっ! なんとか言ってくれ!! 何があったというんだ!?」
「……………………騙された……。エミルに嵌められたんだ……」

 わたしが知らない間にハーニエル家のビジネスパートナーになっていた、エミル・レルネットと呼ばれる男性。
 端的に言うと、そのエミルという人に大金を持ち逃げされていた。
 その経緯は、滑稽極まりない。
 まずは甘い言葉で誘い簡単に大きな利益をあげさせ、それによりハーニエル家から信頼を得る。それから、

『必ず勝てる勝負を見つけた』
『悠長に考えている暇はない。すぐに動かないと誰かに取られてしまう』
『臨機応変に素早く立ち回りたいから金を預けてもらいたい』

 と提案。一度大成功を経験し、加えて借金生活を強いられてきた――長年『富裕』に憧れを持っていたこの人達は、半ば理性が蒸発しまんまと乗っていたのだった。

「……そんな……。あのエミルが…………持ち逃げしただなんて……」
「気付いた時には、もう手遅れだった……。こちらが動き出した時には、すでに国外に逃げられてしまっていて……。捕まえることは不可能…………全てを奪われてしまった……」
「さ、最悪だ……。あっ、アイツめ……! よくも騙したな……!! 誓約書まで交わしたのに――っ、怒っている場合じゃなかった! 父さん!!」

 顔を青ざめさせながら拳を震わせ、動揺しつつ怒りを露わにする――という演技をしていたイブライム様は、ダニエル様へと身体を向けた。

「さっき半分近くって言っていたよね!? だとしたら……。まさか……」
「……………………。ああ、そのまさかだ……。あの額を失って……立て直せるだけの力はない……。我々の前にあるのは、急激な下り坂……。これから勢いよく転げ落ちてゆき…………最後に待っているのは、破産だ……」

 およそ半分あるから大丈夫。それはハーニエル家には適用されない。
 この家にとってその額の消失は致命傷で、どう足掻いても『最悪』は免れない。

「そ、んな……。はさん、だなんて……。…………こ、これは…………ゆめ、だよな…………? そう、なんだよね……!? ねえ父さん!」
「………………。………………。……………………」
「ぁ、ぁぁぁ……。ぁぁぁぁぁ……。そんなぁぁああああああああ――っっ!」

 頭を抱えながら盛大に崩れ落ち、上体を仰け反らしながら絶句する。そんなことをしていたイブライム様は突然ハッとなり、今度はわたしへと身体全体を向ける。
 そうしてこの方は、情けなさげに歯を噛み締めたあと――

「あ、アン……。俺を……。俺達を、助けてくれませんか……?」

 ――そんな言葉を紡いだのだった。
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