困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず

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第5話 行動開始 アン視点

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「? お兄様、おじ様。さっきのは、一体……?」

 味方であるお二人と落ち着いてお話をできる、商会内で唯一の場所。副会頭室に入ったわたしは、背後にある扉を一瞥した。
 こちらを目指していると、副会頭室の中からヴィッケルさんが――商会の幹部でありお父様の腰巾着のひとりが、飛び出すように部屋を出ていくのが見えた。あの方はいつも冷静沈着で取り乱す姿は見せないし、お父様と同じでお兄様を蔑視して近づかないようにしていたはず。
 何があったのかしら……?

「来てくれてありがとうございます、アン。彼は、こちらの作戦に嵌まってくれたのですよ」
「アン、兄は最初機嫌が悪かっただろう? その理由は?」
「把握しております。ザックスさんが退職されたそうですね」

 ヴィッケルさんと同じく、腰巾着の幹部。お父様にも知らされることはなかった、一身上の都合で商会を去られたそう。

「あれは、我々が仕掛けた結果なのだ。エリオッツがあやつの身辺を探り、弱みを見つけ、その情報の拡散を脅迫材料として辞職させたのだよ」
「会頭の座を奪い取るには、あちらの戦力を削ぎ落さないといけない。その一環として仕込んでいた爆弾を、予定よりかなり早く起爆させたんですよ。アンのおかげで、大爆発へと繋がるようになりましたからね」

 クスリ、と。お兄様は笑ったあと、わたしが見ていた扉を一瞥された。

「ついさっき飛び出したヴィッケル、彼には事前に辞職を『会頭がハーニエル家にポストを与えるためにザックスの首を切った』という形に変えてを伝えました。更には先の会頭室でのやり取りを――『ハーニエル家との関係をより強固かつ懇意にしようとしていると感じる』会話を盗み聞きするように促し、そうすれば……どうなると思いますか?」
「いずれ自分も切られてしまう。そう感じます」
「はい、正解です」

 ハーニエル家からの侯爵への紹介、ハーニエル家への再支援、加えてお父様の性質。それらは動機には充分すぎる。

「そうして真っ青になったザックスに、わたしがこう告げたのだ。『わたしが権力争いで勝てば、その地位はこの先も保証されるだろう』『ひとりの謀反ではあまりにも分が悪い。最低でも過半数の幹部を説得できたら、我々はその勝負をものにできる』、とな」
「だから……。あんなにも急がれていたのですね」
「事が事ですからね、そうなります。……ちなみに返答の期限は、今から1時間に設定しています。さあて、どうなるでしょうね?」

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