14 / 39
第5話 行動開始 アン視点
しおりを挟む
「? お兄様、おじ様。さっきのは、一体……?」
味方であるお二人と落ち着いてお話をできる、商会内で唯一の場所。副会頭室に入ったわたしは、背後にある扉を一瞥した。
こちらを目指していると、副会頭室の中からヴィッケルさんが――商会の幹部でありお父様の腰巾着のひとりが、飛び出すように部屋を出ていくのが見えた。あの方はいつも冷静沈着で取り乱す姿は見せないし、お父様と同じでお兄様を蔑視して近づかないようにしていたはず。
何があったのかしら……?
「来てくれてありがとうございます、アン。彼は、こちらの作戦に嵌まってくれたのですよ」
「アン、兄は最初機嫌が悪かっただろう? その理由は?」
「把握しております。ザックスさんが退職されたそうですね」
ヴィッケルさんと同じく、腰巾着の幹部。お父様にも知らされることはなかった、一身上の都合で商会を去られたそう。
「あれは、我々が仕掛けた結果なのだ。エリオッツがあやつの身辺を探り、弱みを見つけ、その情報の拡散を脅迫材料として辞職させたのだよ」
「会頭の座を奪い取るには、あちらの戦力を削ぎ落さないといけない。その一環として仕込んでいた爆弾を、予定よりかなり早く起爆させたんですよ。アンのおかげで、大爆発へと繋がるようになりましたからね」
クスリ、と。お兄様は笑ったあと、わたしが見ていた扉を一瞥された。
「ついさっき飛び出したヴィッケル、彼には事前に辞職を『会頭がハーニエル家にポストを与えるためにザックスの首を切った』という形に変えてを伝えました。更には先の会頭室でのやり取りを――『ハーニエル家との関係をより強固かつ懇意にしようとしていると感じる』会話を盗み聞きするように促し、そうすれば……どうなると思いますか?」
「いずれ自分も切られてしまう。そう感じます」
「はい、正解です」
ハーニエル家からの侯爵への紹介、ハーニエル家への再支援、加えてお父様の性質。それらは動機には充分すぎる。
「そうして真っ青になったザックスに、わたしがこう告げたのだ。『わたしが権力争いで勝てば、その地位はこの先も保証されるだろう』『ひとりの謀反ではあまりにも分が悪い。最低でも過半数の幹部を説得できたら、我々はその勝負をものにできる』、とな」
「だから……。あんなにも急がれていたのですね」
「事が事ですからね、そうなります。……ちなみに返答の期限は、今から1時間に設定しています。さあて、どうなるでしょうね?」
味方であるお二人と落ち着いてお話をできる、商会内で唯一の場所。副会頭室に入ったわたしは、背後にある扉を一瞥した。
こちらを目指していると、副会頭室の中からヴィッケルさんが――商会の幹部でありお父様の腰巾着のひとりが、飛び出すように部屋を出ていくのが見えた。あの方はいつも冷静沈着で取り乱す姿は見せないし、お父様と同じでお兄様を蔑視して近づかないようにしていたはず。
何があったのかしら……?
「来てくれてありがとうございます、アン。彼は、こちらの作戦に嵌まってくれたのですよ」
「アン、兄は最初機嫌が悪かっただろう? その理由は?」
「把握しております。ザックスさんが退職されたそうですね」
ヴィッケルさんと同じく、腰巾着の幹部。お父様にも知らされることはなかった、一身上の都合で商会を去られたそう。
「あれは、我々が仕掛けた結果なのだ。エリオッツがあやつの身辺を探り、弱みを見つけ、その情報の拡散を脅迫材料として辞職させたのだよ」
「会頭の座を奪い取るには、あちらの戦力を削ぎ落さないといけない。その一環として仕込んでいた爆弾を、予定よりかなり早く起爆させたんですよ。アンのおかげで、大爆発へと繋がるようになりましたからね」
クスリ、と。お兄様は笑ったあと、わたしが見ていた扉を一瞥された。
「ついさっき飛び出したヴィッケル、彼には事前に辞職を『会頭がハーニエル家にポストを与えるためにザックスの首を切った』という形に変えてを伝えました。更には先の会頭室でのやり取りを――『ハーニエル家との関係をより強固かつ懇意にしようとしていると感じる』会話を盗み聞きするように促し、そうすれば……どうなると思いますか?」
「いずれ自分も切られてしまう。そう感じます」
「はい、正解です」
ハーニエル家からの侯爵への紹介、ハーニエル家への再支援、加えてお父様の性質。それらは動機には充分すぎる。
「そうして真っ青になったザックスに、わたしがこう告げたのだ。『わたしが権力争いで勝てば、その地位はこの先も保証されるだろう』『ひとりの謀反ではあまりにも分が悪い。最低でも過半数の幹部を説得できたら、我々はその勝負をものにできる』、とな」
「だから……。あんなにも急がれていたのですね」
「事が事ですからね、そうなります。……ちなみに返答の期限は、今から1時間に設定しています。さあて、どうなるでしょうね?」
254
あなたにおすすめの小説
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います
成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
お義姉様ばかりずるいと義妹に婚約者を取られましたが、隣国で幸せに暮らしているのでどうぞご自由に。なので今更帰って来いと言われても困ります。
神崎 ルナ
恋愛
フラン・サンシェルジュ侯爵令嬢は、義妹のローズに『お義姉様だけずるい』と何度も持ち物を取り上げられてきた。
ついにはアール王子との婚約も奪われてしまう。
フランは隣国へと出奔し、生計を立てることに。
一方その頃、アール王子達は――。
『おい、何でこんな簡単な書類整理ができないんだ?』
『お義姉様にできたことなら私にだってできますわ。もうしばらくお待ち下さい』
仕事をフランに押し付けていたため、書類が山のように溜まる王子の執務室では毎日のように言い合いがされていた。
『やはり、フランでないとダメだ』
ローズとの婚約はそのままに、フランをタダ働きさせるつもりのアール王子がフランを探しに行くが既にフランは隣国で新しい生活を手に入れていた。
その頃サンシェルジュ侯爵邸ではーー。
「見つけたぞっ!!」
「なっ、お前はっ!?」
冒険者風の男がローズと継母に迫っていた。
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
「本当の自分になりたい」って婚約破棄しましたよね?今さら婚約し直すと思っているんですか?
水垣するめ
恋愛
「本当の自分を見て欲しい」と言って、ジョン王子はシャロンとの婚約を解消した。
王族としての務めを果たさずにそんなことを言い放ったジョン王子にシャロンは失望し、婚約解消を受け入れる。
しかし、ジョン王子はすぐに後悔することになる。
王妃教育を受けてきたシャロンは非の打ち所がない完璧な人物だったのだ。
ジョン王子はすぐに後悔して「婚約し直してくれ!」と頼むが、当然シャロンは受け入れるはずがなく……。
妹と再婚約?殿下ありがとうございます!
八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。
第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。
「彼女のことは私に任せろ」
殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします!
令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。
王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。
ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる