困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず

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第10話 当主がいない理由 イブライム視点(1)

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「貴方の言う卿は――ケヴィックは、この場にも屋敷にもいません。厳密に申し上げますと、もう二度とこの場に現れることはないのですよ」
「……。なんだって……?」

 両親と共に応接室に足を踏み入れた俺は、更に困惑する羽目になった。
 卿は屋敷にいない? もう二度と現れない?

「ええと……あ、アン。僕達は卿に招待されてきたんだよね? どうしてその本人がいらっしゃらなくて、しかも二度となんてついているんだい? もしかして……卿の身に、重大な何かがあったのかい……?」

 いや、それはない。もしもそうなら、実子であるアンがこんなに落ち着いているはずはない。
 それに屋敷の中も、いつもと変わりな――待てよ……。そういえば……。今日のフェリレーザ邸は、なにかが――

「ええ、その通りです。彼の身には極めて大きなことがありました。招待したはずの者がこの場にいないことも、二度と姿を晒せないことも、全てそちらが起因しています」

 ――違和感を覚えていると、エリオッツが流麗に頷いた。

「実を言いますと僕は、そちらの詳細などを・・・・・お伝えするためにこの場に存在しております。……では、イブライム様、当主ダニエル様、当主夫人アリックス様。説明させていただきます」
「……あ、ああ、してくれ。何がどうなっているんだい……!?」

 アンに話を振っているのに平民の養子如きが出しゃばってくるなど、苛立ちを覚える点は多数ある。だが状況が状況だ。
 俺達家族は『問題点』には触れず、揃ってエリオッツへと顔を向けた。

「…………まずは、単刀直入に申し上げましょうか。フィリアリス商会商会頭ケヴィック、フェリルーザ家当主ケヴィック、以上の人物はもう存在致しません。あの男は昨日二つの地位および全ての資格権利を失い、一生涯とある場所にて療養生活を送ることになっております」
「「「な……っ」」」

 クーデターの発生により、卿は何もかもを失っていた……。現在その後釜には、アンの叔父であるルシアンが座っていた……。

「昨日あなた方のもとに、届いた手紙。アンがあれを作成したのは、事が起きた後。あの時すでに、状況は様変わりしていたのですよ」

 あの手紙に書かれてあった内容は、どれも嘘……。確かに支援を約束していたが、当の本人はすでに失脚していて……。
 俺を――俺達一家をここに呼び寄せるために、書かれていたものだった……。

「あ、アン――違うっ、お前だな! エリオッツ! お前は何を企んでいるんだ!?」


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