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第5話 ピアニストらしい楽しい時間と、ピアニストらしい提案 リュクレース視点(1)
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「フィリベール様には感謝してもしきれません。本当に、ありがとうございます」
「こちらこそですよ。湖の話題で会話が弾み、もっとあの湖に触れたくなったからこそ――僕ひとりならば、きっと乗らなかったでしょうからね。そういった気持ちにさせてくださり、そして、その提案を受けてくださりありがとうございます」
フィリベール様に案内していただいた、『アーチルス』というお洒落なカフェ。その店内に2つだけある個室の中で、わたし達は興奮気味に言葉を交わしていました。
『あちらで頼めば、船を出してもらえるみたいですね。外と内では景色も大きく異なるでしょうし、乗ってみませんか?』
『前回は時間的な問題もあって、興味はあったものの叶わなかったんです。はいっ、乗ってみましょうっ』
フィリベール様の、仰る通りでした。
湖の外と内では想像以上に『感じ方』が違っていて、わたしは――わたし達は様々なものを感じ、様々な刺激を受けていたのです。
「澄んだ水に囲まれる。……いえ、もっと心と身体の距離は近かった。澄んだ水に――『透明』に、包まれている。わたしはそう感じました」
「ええ。あれはまるで、『清廉』というものが具現化した世界。別の世界に居るようでしたね」
「あまりにも清らかで、時が止まっているとすら感じましたよね。穏やかな永遠を感じました」
「僕は、永遠は恐怖の対象だったのですよ。なぜなら終わることがない、終わりたくなっても終われないからです。けれどあの永遠ならば、いつまでも揺蕩(たゆた)っていたくなりました。それほどまでに、心地よかった」
あのような感覚に触れたのは、初めてでした。
そして、もうひとつ。
そんな感動であり感動が生んだ、別の『心地よさ』もありました。
「~~~♪ ~~~~♪」
「~~~♪ ~~~~♪」
「ふふ。フィリベール様、また重なりましたね」
「あの感覚を思い出したら、口ずさみたくなりますよね」
インテグリティ。マトローシュルズ湖を表現した曲。
その中でももっとも『清廉』『透明』さが表現されている部分を鼻歌で口ずさみ、改めて感動を覚えます。
フィリベール様の声は低めで、わたしの声音は高め。お互いの声質がとてもよく重なって、自分も関わっているので少々変ではあるのですが……。すごく素敵なハーモニーが生まれるんです。
「出していて気持ちがいいし、その声を聴いていても気持ちがいい。……もう1度、構いませんか?」
「わたしもまったく同じでして、同じことをお願いしようと思っていました」
「そうでしたか。では」
「はい」
「~~~♪ ~~~~♪」
「~~~♪ ~~~~♪」
声の相性もそうですが、同じ『こと』であり『もの』を共有して共感したことも影響しているのでしょうね。
魂がシンクロしているような感覚を抱きながら、1回、2回、3回と、それ以降はおのずとユニゾンしていって――
何度も何度も繰り返し、更にいくつもの感動を覚えたからなのでしょう。
それらの感動が、一種の『ワガママ』を生んでしまったのでしょう
やがて即興の競演が終わると、お互いの口から自然とこんな提案が出ていたのでした。
「よろしければ、わたしと連弾をしてはいただけないでしょうか?」「よろしければ、僕と連弾をしてはいただけないでしょうか?」
「こちらこそですよ。湖の話題で会話が弾み、もっとあの湖に触れたくなったからこそ――僕ひとりならば、きっと乗らなかったでしょうからね。そういった気持ちにさせてくださり、そして、その提案を受けてくださりありがとうございます」
フィリベール様に案内していただいた、『アーチルス』というお洒落なカフェ。その店内に2つだけある個室の中で、わたし達は興奮気味に言葉を交わしていました。
『あちらで頼めば、船を出してもらえるみたいですね。外と内では景色も大きく異なるでしょうし、乗ってみませんか?』
『前回は時間的な問題もあって、興味はあったものの叶わなかったんです。はいっ、乗ってみましょうっ』
フィリベール様の、仰る通りでした。
湖の外と内では想像以上に『感じ方』が違っていて、わたしは――わたし達は様々なものを感じ、様々な刺激を受けていたのです。
「澄んだ水に囲まれる。……いえ、もっと心と身体の距離は近かった。澄んだ水に――『透明』に、包まれている。わたしはそう感じました」
「ええ。あれはまるで、『清廉』というものが具現化した世界。別の世界に居るようでしたね」
「あまりにも清らかで、時が止まっているとすら感じましたよね。穏やかな永遠を感じました」
「僕は、永遠は恐怖の対象だったのですよ。なぜなら終わることがない、終わりたくなっても終われないからです。けれどあの永遠ならば、いつまでも揺蕩(たゆた)っていたくなりました。それほどまでに、心地よかった」
あのような感覚に触れたのは、初めてでした。
そして、もうひとつ。
そんな感動であり感動が生んだ、別の『心地よさ』もありました。
「~~~♪ ~~~~♪」
「~~~♪ ~~~~♪」
「ふふ。フィリベール様、また重なりましたね」
「あの感覚を思い出したら、口ずさみたくなりますよね」
インテグリティ。マトローシュルズ湖を表現した曲。
その中でももっとも『清廉』『透明』さが表現されている部分を鼻歌で口ずさみ、改めて感動を覚えます。
フィリベール様の声は低めで、わたしの声音は高め。お互いの声質がとてもよく重なって、自分も関わっているので少々変ではあるのですが……。すごく素敵なハーモニーが生まれるんです。
「出していて気持ちがいいし、その声を聴いていても気持ちがいい。……もう1度、構いませんか?」
「わたしもまったく同じでして、同じことをお願いしようと思っていました」
「そうでしたか。では」
「はい」
「~~~♪ ~~~~♪」
「~~~♪ ~~~~♪」
声の相性もそうですが、同じ『こと』であり『もの』を共有して共感したことも影響しているのでしょうね。
魂がシンクロしているような感覚を抱きながら、1回、2回、3回と、それ以降はおのずとユニゾンしていって――
何度も何度も繰り返し、更にいくつもの感動を覚えたからなのでしょう。
それらの感動が、一種の『ワガママ』を生んでしまったのでしょう
やがて即興の競演が終わると、お互いの口から自然とこんな提案が出ていたのでした。
「よろしければ、わたしと連弾をしてはいただけないでしょうか?」「よろしければ、僕と連弾をしてはいただけないでしょうか?」
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