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第22話 幼馴染2人のその後~リュクレースの場合・その6~ リュクレース視点(1)
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「明日、ミシェルの長期療養が発表されることになりました」
6月19日、あの日からちょうど1週間後。わたし達は普段よりもかなり早い午前10時に、集合場所に集まった――先生のご友人所有の練習施設で再会し、まずは『この間の続き』を教えていただきました。
静かに過ごすか、過ごさないか。
ラワトルス様は、後者を選ばれた。最後の一線を越えてしまったため、危害を加えられない場所に運ばれたそうです。
「リュクレース様。重ね重ね、ご迷惑をおかけいたしました」
「フィリーベル様も被害者、そのようなお言葉は必要ありませんよ。……本当に、お疲れ様でした」
「…………ありがとうございます」
姿勢を正して、左の手を胸に当てる。
敢えて最上位ではない謝意の形でお気持ちを伝えてくださり、これでそのお話はお仕舞。お胸から左手から離れたのを合図に、ここを訪れた目的が始まります。
「まさか、一緒に出来ると思ってもみませんでした」
「わたしも、もう一曲増えるとは思っていませんでした。素敵な曲を紹介してくださったフィリベール様に感謝です」
『作者ラルズは祖父と付き合いがあり、それが縁でウチの倉庫に楽譜が眠っていたのですよ。ココが好きになった僕に父がその存在を教えてくれて、知り、引き込まれたというわけです』
『素敵な御縁、出逢いですね。わたしも聴いてみたくなりました』
『でしたらあとで、演奏させていただきますよ。同じ感想を抱かれたリュクレース様なら、きっと気に入ってくださると思いま――』
あのあとフィリベール様に演奏をしていただき、わたしは『カレイドスコープ』を聴きました。
揺れる木々と、その隙間から覗く星空。
まさにあの世界が音によって表現されていて、あっという間にファンになりまして。わたしも弾きたくなりましたし、こちらは『二台ピアノ』でも演奏することができるので一緒に弾きたくもなったのです。
ですので楽譜をお借りして練習をして、合わせることができるようになった。
普段よりも集合時間が早い理由の一つが、『いつもより一曲多く弾きたい』なのです。
「ひとりで弾いた時とふたりで弾いた時の違いなど、気になっている点もたくさんありました。とても楽しみです」
「僕もですよ。以前のように一週間後が非常に楽しみで、ワクワクしていました」
わたし達はお互い期待に胸を膨らせながら演奏の準備を行い、やがてストレッチなども終わって始められるようになりました。
「……リュクレース様」
「……フィリベール様」
独奏を披露し合うお約束もありますが、やはり最初は一緒に行える『二台ピアノ』から。わたし達はいつものように、言葉と動作で合図を行い――
○○
「…………リュクレース様。もう、こんなにも経っていたのですね」
「…………そう、なんですよね。あっという間でした」
わたしが表現する『夜空』の音と、フィリーベル様が表現する『木々』の音。そしてそれらが合わさることで生まれ、追加される『星』を表現した音。
それらに浸り、何度も音を重ね、気が付くと掛け時計の長針が2周していました。
「とても、とても楽しかった。けれどまだまだ足りません」
「わたしもです。やっと感覚を掴めてきたところでして、まだまだ足りません」
フィリベール様の音と絡み合った時に、あの景色が頭の中に浮かび上がりました。ですがそれは『ぼんやり』とで、その理由は『カレイドスコープ』という曲と心がシンクロしきれていないから。
ですがソレはフィリベール様と共演することによって深まっていて、もっともっとやりたくなっているのです。
「……とはいえ、仕方がありませんね」
「そうですね、フィリベール様。今日は仕方がありません」
続けたい気持ちはあるのですが、できない理由。それは2日前急に、このあとに入った予定にあって――
6月19日、あの日からちょうど1週間後。わたし達は普段よりもかなり早い午前10時に、集合場所に集まった――先生のご友人所有の練習施設で再会し、まずは『この間の続き』を教えていただきました。
静かに過ごすか、過ごさないか。
ラワトルス様は、後者を選ばれた。最後の一線を越えてしまったため、危害を加えられない場所に運ばれたそうです。
「リュクレース様。重ね重ね、ご迷惑をおかけいたしました」
「フィリーベル様も被害者、そのようなお言葉は必要ありませんよ。……本当に、お疲れ様でした」
「…………ありがとうございます」
姿勢を正して、左の手を胸に当てる。
敢えて最上位ではない謝意の形でお気持ちを伝えてくださり、これでそのお話はお仕舞。お胸から左手から離れたのを合図に、ここを訪れた目的が始まります。
「まさか、一緒に出来ると思ってもみませんでした」
「わたしも、もう一曲増えるとは思っていませんでした。素敵な曲を紹介してくださったフィリベール様に感謝です」
『作者ラルズは祖父と付き合いがあり、それが縁でウチの倉庫に楽譜が眠っていたのですよ。ココが好きになった僕に父がその存在を教えてくれて、知り、引き込まれたというわけです』
『素敵な御縁、出逢いですね。わたしも聴いてみたくなりました』
『でしたらあとで、演奏させていただきますよ。同じ感想を抱かれたリュクレース様なら、きっと気に入ってくださると思いま――』
あのあとフィリベール様に演奏をしていただき、わたしは『カレイドスコープ』を聴きました。
揺れる木々と、その隙間から覗く星空。
まさにあの世界が音によって表現されていて、あっという間にファンになりまして。わたしも弾きたくなりましたし、こちらは『二台ピアノ』でも演奏することができるので一緒に弾きたくもなったのです。
ですので楽譜をお借りして練習をして、合わせることができるようになった。
普段よりも集合時間が早い理由の一つが、『いつもより一曲多く弾きたい』なのです。
「ひとりで弾いた時とふたりで弾いた時の違いなど、気になっている点もたくさんありました。とても楽しみです」
「僕もですよ。以前のように一週間後が非常に楽しみで、ワクワクしていました」
わたし達はお互い期待に胸を膨らせながら演奏の準備を行い、やがてストレッチなども終わって始められるようになりました。
「……リュクレース様」
「……フィリベール様」
独奏を披露し合うお約束もありますが、やはり最初は一緒に行える『二台ピアノ』から。わたし達はいつものように、言葉と動作で合図を行い――
○○
「…………リュクレース様。もう、こんなにも経っていたのですね」
「…………そう、なんですよね。あっという間でした」
わたしが表現する『夜空』の音と、フィリーベル様が表現する『木々』の音。そしてそれらが合わさることで生まれ、追加される『星』を表現した音。
それらに浸り、何度も音を重ね、気が付くと掛け時計の長針が2周していました。
「とても、とても楽しかった。けれどまだまだ足りません」
「わたしもです。やっと感覚を掴めてきたところでして、まだまだ足りません」
フィリベール様の音と絡み合った時に、あの景色が頭の中に浮かび上がりました。ですがそれは『ぼんやり』とで、その理由は『カレイドスコープ』という曲と心がシンクロしきれていないから。
ですがソレはフィリベール様と共演することによって深まっていて、もっともっとやりたくなっているのです。
「……とはいえ、仕方がありませんね」
「そうですね、フィリベール様。今日は仕方がありません」
続けたい気持ちはあるのですが、できない理由。それは2日前急に、このあとに入った予定にあって――
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