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プロローグ
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「エメリック殿下、素敵でしたわね……っ。御挨拶をされているだけなのに、絵になっていましたもの……っ」
「ええ。いつお会いしても、目を奪われてしまいます。理想の男性ですわよね……っ」
「そんな方の寵愛を、一身に受けられるだなんて……っ。リル様が羨ましいですわ」
「はい。あたしは幸せ者です。世界一の、幸せ者ですよ」
国王陛下の――もうすぐ義父となる人の、生誕祭。その会場であたしは、いつものように作り笑いを浮かべる。
幸せ者。世界一の幸せ者なんて、微塵も思ってはいない。
なぜならその理由は、この婚約は強制的なものだから。
今から1年と少し前のこと。とある夜会で殿下に目を付けられて、本人と息子を溺愛する国王夫婦に圧力をかけられて話を進められて……。将来を誓い合っていた幼馴染アルフレッドとの縁を、大勢の前で無理やり切らされた……。
アルフレッドは真実を分かってくれていて、必死に抵抗してくれたけど……。今から10か月前に、殿下と婚約。その後は花嫁修業の名目で王宮で過ごす羽目になって、それからはアルフレッドとの接触も許されなくて……。傍にいるのは、いつもこの人。
外面(そとづら)はとても良いけど中身は真逆。自己中心的で性格がビックリするくらい悪くて、そんな人と過ごす日々は地獄。
とてつもなく辛いけど……。顔に出したら伯爵家のウチは簡単に潰されちゃって、両親や弟、それにアルフレッドまでもが酷い目に遭わされちゃうから……。
愛想笑いだけの毎日で、常套句は『あたしも殿下が大好きですよ』『殿下と出会えて、この心はすっかり変わりました。運命の相手はアルフレッドではなく、エメリック様です』『あたしを見つけてくださり、ありがとうございます』。
あたしはあの日から、心に仮面をつけて生きてきたのだ。
「一日だけでもいいので、リル様と入れ替わってみたいですわ……っ。夢のような時間を、過ごしてみたい……っ」
「殿下のお隣で、愛される……。一生忘れられない思い出になりますわね……っ」
「間違いありませんわ……っ。憧れの人に、自分だけを見てもらえる……。なんて素敵な一時(ひととき)なのでしょう――あら? 殿下のお隣に、女性がいらっしゃいますわね……?」
挨拶を終えたあと、私用があると会場から出ていたエメリック様。そんな彼が戻ってくると、その隣には見覚えのある人がいた。
彼女は同じく伯爵家の令嬢、サーフィナ・コアナさん。あたしが参加するお茶会の、メンバーの1人だ。
「お傍に異性を置くなんて。初めてですわね」
「ええ。どうされたのでしょうか……?」
今やすっかり、注目の的。会場中の視線を浴びた殿下は流麗な動作であたしの前までやってきて、隣にいるサーフィナさんを守るようにして立ち止まった。
「殿下……? 急に、どうされた――」
「参加者の皆様が、非常に困惑されている。故に、先に核心を告げる」
エメリック殿下はあたしの声を遮り、ため息を一つ。呆れと軽蔑の感情をたっぷりと含んだ状態で、
「リル・サートル。この瞬間を以て、君との婚約を破棄する」
予想だにしなかった言葉を、口にした。
…………………………。こんやく、はき……。
「ショックを受けているようだが、これは決定事項だ。この瞬間を以て、君との婚約は破棄する」
「そ、そう、なのですか……。………………ありがとうございます!」
ピキピキピキ、パリン。
つけていた仮面にひびが入り、真っ二つに割れる音が聞こえた。
4月21日の、午後7時31分――。あたしは10か月振りに、本物の笑顔を浮かべたのでした。
「ええ。いつお会いしても、目を奪われてしまいます。理想の男性ですわよね……っ」
「そんな方の寵愛を、一身に受けられるだなんて……っ。リル様が羨ましいですわ」
「はい。あたしは幸せ者です。世界一の、幸せ者ですよ」
国王陛下の――もうすぐ義父となる人の、生誕祭。その会場であたしは、いつものように作り笑いを浮かべる。
幸せ者。世界一の幸せ者なんて、微塵も思ってはいない。
なぜならその理由は、この婚約は強制的なものだから。
今から1年と少し前のこと。とある夜会で殿下に目を付けられて、本人と息子を溺愛する国王夫婦に圧力をかけられて話を進められて……。将来を誓い合っていた幼馴染アルフレッドとの縁を、大勢の前で無理やり切らされた……。
アルフレッドは真実を分かってくれていて、必死に抵抗してくれたけど……。今から10か月前に、殿下と婚約。その後は花嫁修業の名目で王宮で過ごす羽目になって、それからはアルフレッドとの接触も許されなくて……。傍にいるのは、いつもこの人。
外面(そとづら)はとても良いけど中身は真逆。自己中心的で性格がビックリするくらい悪くて、そんな人と過ごす日々は地獄。
とてつもなく辛いけど……。顔に出したら伯爵家のウチは簡単に潰されちゃって、両親や弟、それにアルフレッドまでもが酷い目に遭わされちゃうから……。
愛想笑いだけの毎日で、常套句は『あたしも殿下が大好きですよ』『殿下と出会えて、この心はすっかり変わりました。運命の相手はアルフレッドではなく、エメリック様です』『あたしを見つけてくださり、ありがとうございます』。
あたしはあの日から、心に仮面をつけて生きてきたのだ。
「一日だけでもいいので、リル様と入れ替わってみたいですわ……っ。夢のような時間を、過ごしてみたい……っ」
「殿下のお隣で、愛される……。一生忘れられない思い出になりますわね……っ」
「間違いありませんわ……っ。憧れの人に、自分だけを見てもらえる……。なんて素敵な一時(ひととき)なのでしょう――あら? 殿下のお隣に、女性がいらっしゃいますわね……?」
挨拶を終えたあと、私用があると会場から出ていたエメリック様。そんな彼が戻ってくると、その隣には見覚えのある人がいた。
彼女は同じく伯爵家の令嬢、サーフィナ・コアナさん。あたしが参加するお茶会の、メンバーの1人だ。
「お傍に異性を置くなんて。初めてですわね」
「ええ。どうされたのでしょうか……?」
今やすっかり、注目の的。会場中の視線を浴びた殿下は流麗な動作であたしの前までやってきて、隣にいるサーフィナさんを守るようにして立ち止まった。
「殿下……? 急に、どうされた――」
「参加者の皆様が、非常に困惑されている。故に、先に核心を告げる」
エメリック殿下はあたしの声を遮り、ため息を一つ。呆れと軽蔑の感情をたっぷりと含んだ状態で、
「リル・サートル。この瞬間を以て、君との婚約を破棄する」
予想だにしなかった言葉を、口にした。
…………………………。こんやく、はき……。
「ショックを受けているようだが、これは決定事項だ。この瞬間を以て、君との婚約は破棄する」
「そ、そう、なのですか……。………………ありがとうございます!」
ピキピキピキ、パリン。
つけていた仮面にひびが入り、真っ二つに割れる音が聞こえた。
4月21日の、午後7時31分――。あたしは10か月振りに、本物の笑顔を浮かべたのでした。
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