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第6話 再会 エルミーヌ視点(4)
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(エルミーヌ様。1週間後の午後6時までに、ここに来てください)
それは、美味しく賑やかな夕食を――季節のお野菜がふんだんに使われたお食事と、皆様との楽しいやり取りを満喫したあとのこと。オヌドルア子爵邸を去ろうとしていると、お見送りをしてくださっていたノア様が、急にそのように囁かれたのでした。
(どうしても、そのタイミングまでに来て欲しいんです。お願いします)
(しょ、承知いたしました。理由をうかがっても、よろしいでしょうか……?)
(今は、言えません。その時になったら分かりますよ)
(そ、そうなのですね。ただ伺うだけで、よろしいのでしょうか……?)
(ええ、そのままで構いません。約束、です。ぜったいに、時間厳守でお願いしますね)
(6時――18時までに、ですね。お任せください)
よく分かりませんが、相当大事なことがあるみたいです。確かその前日には、ジスラン様がいらっしゃる――また出ていっていろと言われるはずですし、悪天候でも問題ないように近くの街に留まっておきましょう。
(ふふ、ありがとうございます)「ではお気をつけて」
「は、はい。楽しい時間をありがとうございました」
ノア様。そして当主のエクサ様、当主夫人のマナン様、ウスターシュ様。全員に会釈を行い馬車に乗り込み、オヌドルア邸をあとにしたのでした。
「お嬢様。なにをお話されていたのですか……?」
「1週間後の午後6時までに来て欲しい、とお願いされたの」
「お約束、ですか? しかし……内緒話でお伝えする内容とは、思えませんね。理由は分かりますか?」
「それが、分からないの。ノア様は、なにを考えていらっしゃるのかしら……?」
――これが、『少々不思議なこと』のふたつめ。
急にお喋りを止めたり、コッソリお約束をしたり。
ノア様とのやり取りを通じて、とても可愛らしく真っすぐな心の持ち主だと分かりました。ですので不安はまったくないのですが、それでも、気になりますよね。
「その時になれば分かる、でしたね。一週間後が待ち遠しいです」
○○
「ノア。ちょっといいかい?」
「お兄様? なんですか?」
「さっき、ヒソヒソ話をしていたよね? エルミーヌ様はかなり驚かれていたけど、どんな話をしたんだい?」
「………………」
「あ、いや、無理強いしてはいないよ。表情で気になったんだ」
「………………。お兄様……」
「ん?」
「わたくし、ヒソヒソ話なんてしていませんよ? お兄様の隣で、お見送りをしていたじゃないですか」
「なんだって……!?」
「ずっと、隣にいましたよ? エルミーヌ様はとってもお優しい方で、『お姉様』と呼ばせていただきたいくらいに尊敬していて……。ヒソヒソだなんて、おこがましくてできませんよっ」
「そ、そっか。そうなんだ」((……本心で、そう言っているように見える……。どうなっているんだ……?))
それは、美味しく賑やかな夕食を――季節のお野菜がふんだんに使われたお食事と、皆様との楽しいやり取りを満喫したあとのこと。オヌドルア子爵邸を去ろうとしていると、お見送りをしてくださっていたノア様が、急にそのように囁かれたのでした。
(どうしても、そのタイミングまでに来て欲しいんです。お願いします)
(しょ、承知いたしました。理由をうかがっても、よろしいでしょうか……?)
(今は、言えません。その時になったら分かりますよ)
(そ、そうなのですね。ただ伺うだけで、よろしいのでしょうか……?)
(ええ、そのままで構いません。約束、です。ぜったいに、時間厳守でお願いしますね)
(6時――18時までに、ですね。お任せください)
よく分かりませんが、相当大事なことがあるみたいです。確かその前日には、ジスラン様がいらっしゃる――また出ていっていろと言われるはずですし、悪天候でも問題ないように近くの街に留まっておきましょう。
(ふふ、ありがとうございます)「ではお気をつけて」
「は、はい。楽しい時間をありがとうございました」
ノア様。そして当主のエクサ様、当主夫人のマナン様、ウスターシュ様。全員に会釈を行い馬車に乗り込み、オヌドルア邸をあとにしたのでした。
「お嬢様。なにをお話されていたのですか……?」
「1週間後の午後6時までに来て欲しい、とお願いされたの」
「お約束、ですか? しかし……内緒話でお伝えする内容とは、思えませんね。理由は分かりますか?」
「それが、分からないの。ノア様は、なにを考えていらっしゃるのかしら……?」
――これが、『少々不思議なこと』のふたつめ。
急にお喋りを止めたり、コッソリお約束をしたり。
ノア様とのやり取りを通じて、とても可愛らしく真っすぐな心の持ち主だと分かりました。ですので不安はまったくないのですが、それでも、気になりますよね。
「その時になれば分かる、でしたね。一週間後が待ち遠しいです」
○○
「ノア。ちょっといいかい?」
「お兄様? なんですか?」
「さっき、ヒソヒソ話をしていたよね? エルミーヌ様はかなり驚かれていたけど、どんな話をしたんだい?」
「………………」
「あ、いや、無理強いしてはいないよ。表情で気になったんだ」
「………………。お兄様……」
「ん?」
「わたくし、ヒソヒソ話なんてしていませんよ? お兄様の隣で、お見送りをしていたじゃないですか」
「なんだって……!?」
「ずっと、隣にいましたよ? エルミーヌ様はとってもお優しい方で、『お姉様』と呼ばせていただきたいくらいに尊敬していて……。ヒソヒソだなんて、おこがましくてできませんよっ」
「そ、そっか。そうなんだ」((……本心で、そう言っているように見える……。どうなっているんだ……?))
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