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3話(6)
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「うちは父親がかなり大きな脱税をしていたみたいで、それが原因で王族に弱みを握られていて……。『従わなければ貴族の称号を剥奪し、当主を処刑する』と脅され、父が僕に噂を広めるよう命じたんです……」
校舎裏につくとすぐ、先輩――上級貴族であるロアル・レーテスさんが、動機を明かしました。
「僕はクラメール兄妹に恨みはないし、これが駄目な事だと分かっていた……。でも、父さんには逆らえなくって……。やり、ました……」
「王族に対する貴族のように、特に上級貴族家庭では『両親は絶対』ですもんね……。私のせいで、すみません……」
「アンリエットの問題がなくても、王族のヤツらは別の形で利用してた。被害者が気に病む必要は皆無だよ」
お兄様がそっと頭を撫でてくださり、それが済むと懐から手帳を出しました。
「アンタの事情は理解したんで、次の質問をする。脱税が発覚した経緯、噂の流布をレーテス家に命じてきたヤツは誰か、分かるか?」
「発覚の経緯は、分かりません。父は国に気付かれないよう完璧に隠していたそうで、先月見つかった際は相当驚いていたようです」
「…………へぇ。国に気付かれないようにしていたのに気づかれた、か」
「後者に関してですが、指示を出してきたのはジルベール殿下の従者様です。初めに僕が応対したので、間違いありません」
「…………ふーん。ジルベールに相当に近しい者から受けた、ね」
お兄様は手帳をぺらぺらと捲り、ページを確認しながらレーテスさんを一瞥します。
「それじゃあ、次の質問に移る。レーテス家の当主様がどんな脱税をしていたのか、分かるか?」
「聞いた話によると、公共事業絡みだそうです。この街の橋や図書館などに関する工事を担当した際の利益を、8年以上前から誤魔化していたそうです」
「なるほど……。となると王族は、コイツと通じているようだな」
シャルルお兄様の視線の先には、『オーカス・ウルデ』という名前がありました。この方は一体……?
「あ、あの。こちらの方は……」
「オーカス・ウルデは税などを含めた貴族の『金』に関する、そして中でも公共事情系統を得意とする、その手のゴシップやスキャンダルを探し回っている人間なんだ。彼は年から年中そういうものを調べ回っていて、今回の脱税を掴めるとしたらオーカスしかいないんだよ」
「こ、こんなことをしている方が、いらしたのですか……。しばしば世間を騒がせている、あらゆる露見のニュース。あれらは、こういう方々が暗躍していたのですね」
「こういう情報は、あちこちで高く買ってもらえるからねえ。どいつもこいつも、必死になって嗅ぎ回ってるんだよ」
お兄様は紙に書かれた文字をピンと指で弾き、手帳を懐に忍ばせました。
「ちなみに彼らは性質上世間に吹聴するツテも多く持っていて、十中八九学舎外で広めているのはコイツ。つまりここを潰して勘違いだったと広めさせれば、噂は収拾するってワケだね」
「そう、なりますね。ですがどうやって、犯人を見つければよいのでしょうか……?」
こういう仕事? をしている人達は、上手く姿を隠しているはずです。今回のように探しても、そうそう発見はできませんよね。
「アンリエット、それが見つけられるんだよ。この手帳の中には、ヤツらの拠点や隠れ家の情報が入ってるからね」
「「ええっ!?」」
傍にいたレーテスさんと同じタイミングで、素っ頓狂な声を出してしまいます。
お、お兄様のもとにはっ。そんなものまであるのですか……!?
「いつ誰がどんな形で牙を剥いてくるか、何がどこでどう役立つか、分からないでしょ? だからあれこれ動いて、一癖ありそうな人間のデータを集めてたんだ」
「…………クラメール家の兄、シャルル……。キミは、何者なんだ……?」
「そっちが言ったように、クラメール家の兄シャルル。大切な妹を守ろうとしている、普通の男さ」
私に一度とても優しくて温かい視線を送ってくださり、そのあと口元がニヤリと緩みました。
「アンタと接触して、無事大本の目星がついた。これでこれから、御挨拶に行ける」
「あ、ああ、そう、だね……。と、ところでっ! 温情については――」
「親の命令なら、しょうがない。アンタが吐いたと口外はしないし、害が及ばないように振る舞う。こっちとしても、その方が都合がいいからな」
お兄様は嘆息しながら黒目を斜めに動かし、『もういい。行け』と暗に告げます。そして私達はその後職員室で早退の申請を行い、お兄様と共に移動を始めたのでした。
校舎裏につくとすぐ、先輩――上級貴族であるロアル・レーテスさんが、動機を明かしました。
「僕はクラメール兄妹に恨みはないし、これが駄目な事だと分かっていた……。でも、父さんには逆らえなくって……。やり、ました……」
「王族に対する貴族のように、特に上級貴族家庭では『両親は絶対』ですもんね……。私のせいで、すみません……」
「アンリエットの問題がなくても、王族のヤツらは別の形で利用してた。被害者が気に病む必要は皆無だよ」
お兄様がそっと頭を撫でてくださり、それが済むと懐から手帳を出しました。
「アンタの事情は理解したんで、次の質問をする。脱税が発覚した経緯、噂の流布をレーテス家に命じてきたヤツは誰か、分かるか?」
「発覚の経緯は、分かりません。父は国に気付かれないよう完璧に隠していたそうで、先月見つかった際は相当驚いていたようです」
「…………へぇ。国に気付かれないようにしていたのに気づかれた、か」
「後者に関してですが、指示を出してきたのはジルベール殿下の従者様です。初めに僕が応対したので、間違いありません」
「…………ふーん。ジルベールに相当に近しい者から受けた、ね」
お兄様は手帳をぺらぺらと捲り、ページを確認しながらレーテスさんを一瞥します。
「それじゃあ、次の質問に移る。レーテス家の当主様がどんな脱税をしていたのか、分かるか?」
「聞いた話によると、公共事業絡みだそうです。この街の橋や図書館などに関する工事を担当した際の利益を、8年以上前から誤魔化していたそうです」
「なるほど……。となると王族は、コイツと通じているようだな」
シャルルお兄様の視線の先には、『オーカス・ウルデ』という名前がありました。この方は一体……?
「あ、あの。こちらの方は……」
「オーカス・ウルデは税などを含めた貴族の『金』に関する、そして中でも公共事情系統を得意とする、その手のゴシップやスキャンダルを探し回っている人間なんだ。彼は年から年中そういうものを調べ回っていて、今回の脱税を掴めるとしたらオーカスしかいないんだよ」
「こ、こんなことをしている方が、いらしたのですか……。しばしば世間を騒がせている、あらゆる露見のニュース。あれらは、こういう方々が暗躍していたのですね」
「こういう情報は、あちこちで高く買ってもらえるからねえ。どいつもこいつも、必死になって嗅ぎ回ってるんだよ」
お兄様は紙に書かれた文字をピンと指で弾き、手帳を懐に忍ばせました。
「ちなみに彼らは性質上世間に吹聴するツテも多く持っていて、十中八九学舎外で広めているのはコイツ。つまりここを潰して勘違いだったと広めさせれば、噂は収拾するってワケだね」
「そう、なりますね。ですがどうやって、犯人を見つければよいのでしょうか……?」
こういう仕事? をしている人達は、上手く姿を隠しているはずです。今回のように探しても、そうそう発見はできませんよね。
「アンリエット、それが見つけられるんだよ。この手帳の中には、ヤツらの拠点や隠れ家の情報が入ってるからね」
「「ええっ!?」」
傍にいたレーテスさんと同じタイミングで、素っ頓狂な声を出してしまいます。
お、お兄様のもとにはっ。そんなものまであるのですか……!?
「いつ誰がどんな形で牙を剥いてくるか、何がどこでどう役立つか、分からないでしょ? だからあれこれ動いて、一癖ありそうな人間のデータを集めてたんだ」
「…………クラメール家の兄、シャルル……。キミは、何者なんだ……?」
「そっちが言ったように、クラメール家の兄シャルル。大切な妹を守ろうとしている、普通の男さ」
私に一度とても優しくて温かい視線を送ってくださり、そのあと口元がニヤリと緩みました。
「アンタと接触して、無事大本の目星がついた。これでこれから、御挨拶に行ける」
「あ、ああ、そう、だね……。と、ところでっ! 温情については――」
「親の命令なら、しょうがない。アンタが吐いたと口外はしないし、害が及ばないように振る舞う。こっちとしても、その方が都合がいいからな」
お兄様は嘆息しながら黒目を斜めに動かし、『もういい。行け』と暗に告げます。そして私達はその後職員室で早退の申請を行い、お兄様と共に移動を始めたのでした。
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