婚約破棄をされたら、お兄様に溺愛されていたと気付きました

柚木ゆず

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4話(6)

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「「くそっ……っ。殿下に手出しはさせ――がふ…………」」
「そ、そんな……。侵入者は……。シャルル・クラメール、だと……!?」

 シャルルの姿を目にしたジルベールは、目尻が切れそうになるほどに目を見開いた。
 ごく潰しの男が単独で乗り込み、いとも容易く大勢の兵士と従者達――護衛役を兼ねた従者達を倒してしまった。そんな事実は脳の許容範囲を軽々と超えており、彼は混乱しかけている。

「なん、だ……? どうなってるんだ……?」
「俺はこの時のために、平凡を装っていた。妹が随分と世話になったから、礼をするためにここにまで来た。説明は終わりで、本題に入るぞ」

 アンリエットの生い立ちを侮辱したことなど、問い詰めたいことは多々ある。しかし反省の気持ちがない言葉になど、意味はない。
 そのためシャルルは、一番の目的を実行。剣を手放してジルベール自慢の前髪を掴み、乱暴に前後へと揺さぶり始めた。

「ぁぎっ! ぎぁあっ! いたぃっ! いたぃい……っ!」
「アンリエットも、あの時に言っていたはずだ。しかしお前は、止めなかった」

 ジルベールの顔は歪み、艶のある髪はすでに何本も抜けているが、まだ止めない。更に何回も何回も揺さぶり、五十回目でやっと終わりを告げた。

「ぁぁ……。ぐぁぁ……。もう、いぃ、だろ……? いい、よな……?」
「いいや、まだだ。お前がアンリエットにしたのは、これだけじゃないだろ?」

 蹲ろうとしていたジルベールの胸元を掴み、シャルルは強制的に相手を立たせる。

「なあ、ジルベール。あの時お前は、揺さぶったあとに何をした?」
「……………………」
「言えよ。なにをした?」
「びっ、ビンタしたっ! 右頬を、ビンタしたっっ!」

 剣で脅された彼は慌てて答え、「けれど!」と続けて口を動かし始めた。

「あれはっ、アイツが爪で引っ掻いたからやっただけだ! そうするつもりはなかったんだっ!」
「ふぅん。そうなのか」
「そっ、そうなんだっ! だから――」
「だから、なんだ? それはそもそも、お前が何もしなかったら起きなかったことだろ」

 ジルベールの声は遮られ、剣を握っていた右手は握り拳を作ります。

「こっちのお礼も、しっかりとさせてもらおうか。覚悟、しろよ?」
「ひぃぃぃぃぃ……っ!」

 さっき揺さぶられた回数は、自分が行ったおよそ10倍。だとしたら、次も10倍で……。
 そんな考えが過ったジルベールは震え上がり、ズボンの股部分がじわりと濡れる。彼は夥しい量の恐怖によって、失禁してしまった。

「お、おねがい……。おねがい、です……っ」
「ん? なんだ?」
「なんでも、する……。します、から……っ。たす、けて……」
「お前にしてもらいたいことなんて、一つもない。取り引きは不成立だ」

 ジルベールの切願は、あっさりと破棄される。そしてそれを合図にシャルルの上半身が捻じられ、全身に力が蓄積してゆく。

「ああ、そういえばだ。お前は婚約を破棄する時、『このボクに相応しくない』と言ったそうだな。アレに関しては、俺も同意しよう」
「……え……? どう、して……?」
「なぜならばお前はこれから牢屋行きとなり、罪人として一生を過ごすのだからな。そんなヤツにアンリエットは、相応しくない」
「…………は? ぼくが、ざいにん……?」

 間抜けに両目を閉じて、開く。理解できない台詞を聞いた彼は、3回目を瞬かせた。

「え……? は……?」
「俺は隣国の王と繋がりがあって、捕らえたオンブルをもとに王族を粛清する準備をしてるんだよ。そいつはどうやっても、阻止できない」
「っっっ!!」

 ここでようやく、ジルベールは思い出す。自らが送り込んだ暗殺部隊が、未だ帰還していないことに。

「ぁ、ぁぁ……。こんなことに、なるなんて……。これは、悪夢、だ……」
「いんや、こいつは現実だ。それを今から、痛感させてやるよ」

 心を折ったシャルルは拘束する右手の力を強め、放つ殺気が膨れ上がった。

「やっ、やめろっ! やめてくれぇぇっ!! おま――あなたに本気で殴らたらっ、ボクはっ! ボクは――」
「安心しろ。死なない程度に抑えておいてやるよ。お前はここで、楽に死なせるつもりはないからな!!」

 鋭く振られた拳が右頬に強くめり込み、ジルベールは真横に吹っ飛んで沈黙。まるで今後の人生を表しているかのように、綺麗なベッドではなく床でうつ伏せになったのでした――。

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