1 / 59
プロローグ 変わり始める状況 アレクシア・フェルア視点
しおりを挟む
「お嬢様……っ。わたくし、もう我慢できません……! あの計画を実行致しましょうっ!」
壁にある小さな掛け時計が、午後の5時過ぎを示した頃。部屋の窓から外の景色を眺めていたら、侍女が目を真っ赤にしながらわたしの手を握ってくれた。
彼女がこんなにも怒り嘆いてくれている理由、それは今朝、妹のキアラに大事な宝物を奪われてしまったから。
『古臭くてセンスがないと思っていたけど、よく見たらソレはとても素敵よね。お姉様には勿体ないから私がもらってあげるわ』
今はもう虹の橋を渡られてしまっている、おじい様とおばあ様。そんなお二人がかつて誕生日にくださった、ブローチ。あの子はついに、わたしが一番大切にしているものを奪っていったのだった。
「欲しいと思うようになったらすぐに自分のものにして……。旦那様と奥様は、それを咎めないどころか褒めて一緒に嗤う……。このような日々が、もう3年も続いています……。これ以上こんな場所に居たら、お嬢様の心が取り返しのつかないことになってしまいます……!」
ガリーお父様、セレストお母様、わたし、キアラ。4人が暮らすフェルア伯爵邸内は、3年前までこんなことにはなっていなかった。お父様たち3人に多少の問題点はあるものの、少なくとも『最悪』ではない家だった。
それがこんな風に長女だけを虐げる1対3の状況となってしまった裏には、3年半前のわたしの行動がある。
『お父様お母様。他家を蹴落とすような真似はなりません。確かにその計画は成功し、ライバルたちは減ることとなるでしょう。ですが悪は滅びると相場が決まっており、悪しき行いに手を染めた者には代償の発生や罰、破滅が待っています。……そのような行動はやめましょう』
ウチは2つの事業を行っていて、ある日二人は自分達が有利になるようライバルを陥れようとした。なのでわたしは即刻反対し、何度も何度も抗議をして――その結果、お父様とお母様はうるさいわたしを忌み嫌うようになった。
その結果キアラはわたしに対して好き放題できる環境を手に入れてしまい、元々あの子にはかなり我が儘で自己中心的な性質があったため、本能の赴くままに動くようになる。
お父様とお母様の口癖が『我が儘を言わないの!』から『アレクシアにだけは我が儘を言ってもいいわよ。どんどん言いなさい』となったことでわたしに雑用をさせるようなったり、欲しいと感じたものは何でも奪うようになったのだった。
まだ関係が良好だった頃にお父様達からいただいた指輪やネックレス、なんて序の口。果てはわたしが婚約を結んでいたリンダール伯爵令息ボスコ様を欲しいと言い出し、半年前に自分の婚約者としてしまっているのです。
「逆恨みをなさる旦那様と奥様からの贈り物なんて要らないし、言い寄られてあっさり心変わりをする方に心残りはない。お嬢様はそう仰られていましたが、今回は違います……。ただでさえストレスが積み重なってしまっているのに、今度はこれ……。繰り返しますが……。これ以上続いてしまいますと、お嬢様の御心が取り返しのつかないことになってしまいます……」
「……そうね、今回の件はとてもショックを受けている。でもね、まだ動かないわ。そうするのはもう少し先よ」
この状況下で動いても、9割以上の成功率がある。とはいえおよそ1割は失敗する確率があるわけで、そうなってしまえばわたしのみならずカタリナに大きな悪影響を与えてしまう。
この人は血の繋がらない姉だと思っている、このお屋敷で唯一の味方なんだもの。
『アレ』か『アレ』が発生する――確実な成功が保障されるまでは、動くわけにはいかない。
「大丈夫、もう3年も苦労してるのだから逆に耐性がしっかりついてるわ。『その時』が来るまで耐えられるから、心配しないで――あら?」
心配しないで頂戴。いつもありがとう。そう伝えようとしていたら、ものすごい勢いで敷地内に馬車が入って来た。
あれは……キアラが乗っていった、ウチの馬車よね。今日はボスコ様と一緒に友人のパーティーに参加していて、帰りには夜になるはずなのに……。どうしたのかしら……?
壁にある小さな掛け時計が、午後の5時過ぎを示した頃。部屋の窓から外の景色を眺めていたら、侍女が目を真っ赤にしながらわたしの手を握ってくれた。
彼女がこんなにも怒り嘆いてくれている理由、それは今朝、妹のキアラに大事な宝物を奪われてしまったから。
『古臭くてセンスがないと思っていたけど、よく見たらソレはとても素敵よね。お姉様には勿体ないから私がもらってあげるわ』
今はもう虹の橋を渡られてしまっている、おじい様とおばあ様。そんなお二人がかつて誕生日にくださった、ブローチ。あの子はついに、わたしが一番大切にしているものを奪っていったのだった。
「欲しいと思うようになったらすぐに自分のものにして……。旦那様と奥様は、それを咎めないどころか褒めて一緒に嗤う……。このような日々が、もう3年も続いています……。これ以上こんな場所に居たら、お嬢様の心が取り返しのつかないことになってしまいます……!」
ガリーお父様、セレストお母様、わたし、キアラ。4人が暮らすフェルア伯爵邸内は、3年前までこんなことにはなっていなかった。お父様たち3人に多少の問題点はあるものの、少なくとも『最悪』ではない家だった。
それがこんな風に長女だけを虐げる1対3の状況となってしまった裏には、3年半前のわたしの行動がある。
『お父様お母様。他家を蹴落とすような真似はなりません。確かにその計画は成功し、ライバルたちは減ることとなるでしょう。ですが悪は滅びると相場が決まっており、悪しき行いに手を染めた者には代償の発生や罰、破滅が待っています。……そのような行動はやめましょう』
ウチは2つの事業を行っていて、ある日二人は自分達が有利になるようライバルを陥れようとした。なのでわたしは即刻反対し、何度も何度も抗議をして――その結果、お父様とお母様はうるさいわたしを忌み嫌うようになった。
その結果キアラはわたしに対して好き放題できる環境を手に入れてしまい、元々あの子にはかなり我が儘で自己中心的な性質があったため、本能の赴くままに動くようになる。
お父様とお母様の口癖が『我が儘を言わないの!』から『アレクシアにだけは我が儘を言ってもいいわよ。どんどん言いなさい』となったことでわたしに雑用をさせるようなったり、欲しいと感じたものは何でも奪うようになったのだった。
まだ関係が良好だった頃にお父様達からいただいた指輪やネックレス、なんて序の口。果てはわたしが婚約を結んでいたリンダール伯爵令息ボスコ様を欲しいと言い出し、半年前に自分の婚約者としてしまっているのです。
「逆恨みをなさる旦那様と奥様からの贈り物なんて要らないし、言い寄られてあっさり心変わりをする方に心残りはない。お嬢様はそう仰られていましたが、今回は違います……。ただでさえストレスが積み重なってしまっているのに、今度はこれ……。繰り返しますが……。これ以上続いてしまいますと、お嬢様の御心が取り返しのつかないことになってしまいます……」
「……そうね、今回の件はとてもショックを受けている。でもね、まだ動かないわ。そうするのはもう少し先よ」
この状況下で動いても、9割以上の成功率がある。とはいえおよそ1割は失敗する確率があるわけで、そうなってしまえばわたしのみならずカタリナに大きな悪影響を与えてしまう。
この人は血の繋がらない姉だと思っている、このお屋敷で唯一の味方なんだもの。
『アレ』か『アレ』が発生する――確実な成功が保障されるまでは、動くわけにはいかない。
「大丈夫、もう3年も苦労してるのだから逆に耐性がしっかりついてるわ。『その時』が来るまで耐えられるから、心配しないで――あら?」
心配しないで頂戴。いつもありがとう。そう伝えようとしていたら、ものすごい勢いで敷地内に馬車が入って来た。
あれは……キアラが乗っていった、ウチの馬車よね。今日はボスコ様と一緒に友人のパーティーに参加していて、帰りには夜になるはずなのに……。どうしたのかしら……?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
603
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる