VTuberデビュー! ~自分の声が苦手だったわたしが、VTuberになることになりました~ 

柚木ゆず

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第17話 配信後のハプニング(2)

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「……翔くん。今、変な音がしなかった……?」
「ええ、そうですね。僕も、聞こえたような気がしました」

 そう、だよね。
 すごく小さかったんだけど。防音室の中で、バチって音がした。

「デスクの下の方から、聞こえてた気がします。下にはあるのは…………タコ足の配線と、パソコンの本体ですね」
「……まさか……。このタイミングで――…………。このタイミングで、起きてしまったみたいですね」

 !!
 翔くんがデスクの下を覗き込もうとしていたら、ブンって音がしてモニターが消えちゃった――モニターだけじゃなかった。パソコンの電源も勝手に切れちゃいました。

「電源を切ってないのに切れちゃったのと、さっきの音。これって……」
「………………はい、そのようです。パソコンが壊れてしまったようです」

 パソコンに詳しい翔くんがあちこち触ってみて、本体についている線を全部外しながら首を右と左に振った。
 ……やっぱり、そうだったんだ……。

「翔くん。パソコンって、どのくらいで治るものなんですか?」
「今はざっくりと見ただけなので、まだ分かりません。詳しく調べてみますね」
「お、お願いします」

 翔くんは自分のお部屋から白色の工具箱を持ってきて、ドライバーをカチャカチャ回してパソコンの本体を開ける。

「……………………」
「……………………」

 開けたパソコンの中を、じっと見て……。なにかボソボソ呟きながら、色んな箇所を触ってみて…………………………。

「故障の原因が分かりました。複数の箇所に問題が起きていまして、その問題はどれも使用しすぎたことが理由です。修理は可能ではありますが、時間的な面でも金銭的な面でも、新調した方がいいですね」

 このパソコンは従姉さんがわざわざ送ってくれた、従姉さんのお古。ずっと配信で使っていたもの。
 Vtuber活動は負荷? とかの関係で他の使い方よりパソコンに負担がかかっていて、パーツを取り寄せたら直せるけど、時間もかかるしまた壊れる可能性も高くって。買い直した方がいいみたい。

「そう、なんですね……。パソコンさん。8回配信させてくれて、ありがとうございました」

 このパソコンさんがあったおかげで、葉月ミアの配信ができました。視聴者さんと交流できて、あの言葉をもらうことができました。
 本当に、ありがとうございました。

「パソコンもきっと、喜んでいると思いますよ」

 翔くんはふわっと優しく目を細めてくれて、んんん? ポケットからスマートフォンを取り出しました。

「? 翔くん?」
「先ほど『時間的にも新調した方がいい』と言いましたが、新たに買う場合でも9月1日に――葉月ミアの顔を公開する配信に間に合わなくなってしまうんですよ」

 電器屋さんで売ってるパソコンではVtuberの配信は難しくって、専門のお店に注文して、作ってもらわないといけないみたい。

「僕の使用しているPC(ピーシー)は配信用に組み立てていないので、使えない。そこで従姉に連絡して、使っていないものを急いで送ってもらうんですよ」
「えっ!? 従姉さん、もう一つパソコンをもってるんですか!?」

 1つお借りしちゃってるから、次は2つめ。
 従姉さんって3つも持っていたの!?

「従姉は――『卯月こよみ』は個人勢ですが、企業や企業所属のVtuberさんからお声がけをいただいて企業コラボも行っています」

 こよみさんのチャンネルを見て勉強をしていた時に、コラボの紹介をする動画も見た。確か有名なショップさんとかお菓子とか、有名なVtuberさんとかと、たくさんコラボしてました。

「もしPCのトラブルで配信できなくなってしまったら、相手や企業様に大きな迷惑がかかってしまいますよね? 特に個人は『信用』が大事でして。大切なものを失ってしまわないように、配信用PCを複数台――3台所有していたんです」
「……そう、なんですね。ぁ、でも……。わたしがまたお借りしたら、1台しかなくなるんじゃ……?」
「そちらはご安心を。卯月こよみの次回――明後日とその次の日、さらにその次の日の夜にある配信は『同時視聴』×2回と『料理配信』で、こちらはノートPCでも可能な配信なんです。そしてその次の日は、Vtuberさんとのオフコラボ――相手の自宅を訪ねてお相手のPCを使って配信するため、保険用のPCがなくても問題ない状態となっているんです」
「そ、そうなんですね」
「ですのでその間に注文しておけば問題なく予備を用意することができるため、このタイミングなら借りても問題がないのですよ」

 そっか。
 不幸中の幸い、っていうのだったんだね。

「従姉を気にかけてくださり、ありがとうございます。連絡してみますね」
「は、はい。お願いします」
「………………………………もしもし、翔です。ええ、はい。先日お借りしたPCなんですが――」

 翔くんはテキパキと状況とお願いをお伝えしてくれて、

「ええ、ええ、はい。助かります。位置的に、翌日の午前中に送ってもらえれば間に合います。着払いでこちらに――え? は、はぁ。分かりました。美月さんに確認してみますね」

 ??? わたしに、確認?
 なんなのかな……?


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