婚約破棄をすると言ってきた人が、1時間後に謝りながら追いかけてきました

柚木ゆず

文字の大きさ
8 / 16

第4話 婚約破棄の直後に アンリエット視点

しおりを挟む
「アンリエット様。僕と婚約をしていただけないでしょうか?」

 それは、フェルナン様が婚約破棄を宣告した直後でした。わたしとフェルナン様を囲んでいたオーディエンスの中から、そう仰りながら近づいてくる男性がいました。
 この方は、ジョエル・メルフェア様。3回生時代のクラスメイトだった方です。

「……正気なのか? 君は何を見て聞いていたんだ? この女はたった今、暴言と暴力を理由に婚約破棄を宣告されたんだぞ?」
「ええ、分かっていますよ。ずっと見ていましたからね、状況は理解していますよ」
「だったらなぜ! わざわざ毒を喰らうような真似をする!? 君には破滅願望があるのかっ!?」
「まさか、そんなものはありませんよ。僕は以前から彼女に惹かれていましたし、なにより――。先の暴言と暴力は根も葉もないものだと思っているため、こうして提案をさせていただいたのですよ」

 貴方が仰った暴力と暴言。それらを見て聞いた人間は、フェルナン様とジュリー様の2名しかいません。
 たったこれだけの証言なんて、信用できませんよ。
 ジョエル様はきっと意図的に、会場中に聞こえるように大きな声を出してくださいました。

「……俺はアンリエットの婚約者だったし、俺とジュリーは学院時代も含め一切接点がなかった。そもそもあの婚約は政略的なもので、我が商会は――何より俺が一番、アンリエットとの婚約を望んでいたんだ。にもかかわらず、嘘を吐いていると――アンリエットとの関係を絶つために、ジュリーと手を組んだと言いたいのか?」
「いえいえ、そんなことは一言も口にしていませんよ。僕は単に、あまりにも証拠が少なすぎるから信用できていないだけです。それと、客観的ではない個人的な理由もありまして――」
「個人的な理由? なんだ」
「貴方もクラスメイトだった時期がありましたよね? ならば、共感していただけるはずです。アンリエット様がそのような真似をする方とは、到底思えないのですよ」

 公爵令嬢でも男爵令嬢であっても、いつも分け隔てなく接していたこと――。
 以前蜂が飛んできた時、他令嬢を庇ってご自分が刺された。その際に、『誰かが痛い思いをするのを見るは辛い』から庇ったと微笑んでいたこと――。
 そんな人が『生意気』と言ったり何度も傷付けるとは思えない――。
 再び大きな声で、理由を語ってくださいました。

「もちろん俺も、それらはちゃんと記憶しているさ。だから最初は信じられなくて、監視したんだ。……残念ながらアレは、自分を良く見せるためのロールプレイの一環だったと思い知ったよ」
「ですがその言い分も、他の目撃者がいない以上は断言できなくなって――という風に、堂々巡りになっていつまでも結論が出ませんよね」

 ニッコリ笑いながら、オーディエンスをぐるりと見回す。そうして皆さんが頷く姿を、隅々まで確認したジョエル様は――

しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

だって、『恥ずかしい』のでしょう?

月白ヤトヒコ
恋愛
わたくしには、婚約者がいる。 どこぞの物語のように、平民から貴族に引き取られたお嬢さんに夢中になって……複数名の子息共々彼女に侍っている非常に残念な婚約者だ。 「……っ!?」 ちょっと通りすがっただけで、大袈裟にビクッと肩を震わせて顔を俯ける彼女。そんな姿を見て、 「貴様! 彼女になにかすることは許さんぞ!」 なんて抜かして、震える彼女の肩を抱く婚約者。 「彼とは単なる政略の婚約者ですので。羽目を外さなければ、如何様にして頂いても結構です。但し、過度な身体接触は困りますわ。変な病気でも移されては堪りませんもの」 「な、な、なにを言っているんだっ!?」 「口付けでも、病気は移りますもの。無論、それ以上の行為なら尚更。常識でしょう?」 「彼女を侮辱するなっ!?」 ヒステリックに叫んだのは、わたくしの義弟。 「こんな女が、義理とは言え姉だなんて僕は恥ずかしいですよっ! いい加減にしてくださいっ!!」 「全くだ。こんな女が婚約者だなんて、わたしも恥ずかしい。できるものなら、今すぐに婚約破棄してやりたい程に忌々しい」 吐き捨てるような言葉。 まあ、この婚約を破棄したいという点に於いては、同意しますけど。 「そうですか、わかりました。では、皆様ごきげんよう」 さて、本当に『恥ずかしい』のはどちらでしょうか? 設定はふわっと。

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

【完結】こんな所で言う事!?まぁいいですけどね。私はあなたに気持ちはありませんもの。

まりぃべる
恋愛
私はアイリーン=トゥブァルクと申します。お父様は辺境伯爵を賜っておりますわ。 私には、14歳の時に決められた、婚約者がおりますの。 お相手は、ガブリエル=ドミニク伯爵令息。彼も同じ歳ですわ。 けれど、彼に言われましたの。 「泥臭いお前とはこれ以上一緒に居たくない。婚約破棄だ!俺は、伯爵令息だぞ!ソニア男爵令嬢と結婚する!」 そうですか。男に二言はありませんね? 読んでいただけたら嬉しいです。

虚言癖の友人を娶るなら、お覚悟くださいね。

音爽(ネソウ)
恋愛
伯爵令嬢と平民娘の純粋だった友情は次第に歪み始めて…… 大ぼら吹きの男と虚言癖がひどい女の末路 (よくある話です) *久しぶりにHOTランキグに入りました。読んでくださった皆様ありがとうございます。 メガホン応援に感謝です。

友達にいいように使われていた私ですが、王太子に愛され幸せを掴みました

麻宮デコ@SS短編
恋愛
トリシャはこだわらない性格のおっとりした貴族令嬢。 友人マリエールは「友達だよね」とトリシャをいいように使い、トリシャが自分以外の友人を作らないよう孤立すらさせるワガママな令嬢だった。 マリエールは自分の恋を実らせるためにトリシャに無茶なお願いをするのだが――…。

処理中です...