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第4話 工作とアプローチの効果は オーガスティン視点(1)

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「なんだって……!? レナエルが急病!? ここにいないだって!?」

 待ちに待った、2日後の正午。上機嫌でニーザリア子爵邸を訪れた俺は、通された応接室で唖然となっていた。
 あの日の夜会が終わって屋敷に戻ったあと、レナエルは眩暈を訴えその直後に倒れてしまったらしい。そうして医者に診させた結果…………空気の綺麗な場所での療養が必要となり、すでに侍女達と共に別邸に移っているらしい。

「肉体的な問題と、精神的な問題が重なったようでして……。最低限の人数で、静かに暮らす必要があるそうなのございますよ……」
「きょ、卿……。ニーザリア卿っ! ど、どのくらいで治るのだっ? 医者はなんと言っているのだ!?」
「…………少なくとも数年は、必要だろうとのことございます……。ただ……」
「治ったとしても…………後遺症のようなものが、残る可能性が非常に高く……。これまでのようには過ごせないだろうと、仰られておりました……」

 しかも面会は不可能で、おまけに……。会えるようになっても、面倒な状態になっている確率が高い――卿と夫人によると、ほぼそうなってしまうそうだ。
 まさか……。こんなことに、なるだなんて……。

「バカな……。あり得ない……。元気だったアイツが、たった数日でそんな状態になってしまうだなんて……。嘘だ……!」

 おもわずそう叫んでしまうが、それこそがあり得ない。
 明日から学院を休学することになっているようだし、コイツらが捏造するメリットなんて何もない。こんな情報が社交界に広がれば、ほぼ間違いなく娘に貴族は寄って来なくなるのだからな!
 なので、全部事実で……。

 レナエルを、諦めざるを得ない。

 アイツは中も外も完璧な女だが、今のレナエルはデメリットが多すぎる。俺のイメージ通りの将来を実現できないのであれば、そんな女は要らない。
 不要だ。

((ビジョンが崩壊してしまったのは腹立たしいが、まあ、結婚後にそうなるよりはマシか))

 それに良い女は、探せばまだまだ居るだろう。仕方ない、こいつはラッキーな出来事として受け入れておくか。
 そうして俺は気持ちを切り替え、レナエルがああなった以上ここに用はない。そこで去るべく立ち上がり――

「お待ちください、オーガスティン様。わたくしに少々、お時間をいただけませんでしょうか?」

 ――立ち上がっていると、ノックの後1人の女が入って来た。
 やけに胸元が開いた服を着ている、リスのような印象を受けるスタイルの良い女。コイツは確か、レナエルの妹・ザラだ。

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