姉の代わりに竜神様の生贄になりました~そんなわたしを待っていたのは、溺愛でした~

柚木ゆず

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第6話 はじめての ミシュリーヌ視点(2)

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「……やはり、ここがしかない。加えて、お誂えなものがあるしな」
「? 竜神様……?」

 立ち止まられた竜神様は、お店を眺めながら何かを仰りました。
 出入口の前に、パペットやたくさんの鉢――カラフルなお花を並べている、賑やかな雰囲気を放つ『リッカ―ル』という名前のお店。こちらが、どうかされたのでしょうか……?

「ミシュリーヌ、ここも俺の行きつけなんだ。共に入ってもらいたい」
「そうだったのですね。竜神様のお気に入りのお店、わたしも気になります」
「そうか、ありがとう。では――ああそうだ。店内では俺のことを、リュカと呼んで欲しい。店主には正体を隠し、とある新聞社の編集者だと伝えているんだ」
「は、はい。リュカさま――リュカさんと呼ばせていただきます」

 竜神様ではなく、編集者のリュカさん。リュカさん。リュカさん。リュカさん。リュカさん。
 うっかり言い間違えてしまわないように心で念を押しながら、竜神様が開けてくださった扉を潜ります。そうしたら――

「わぁ。素敵……!」

 ――ネックレスやイヤリングやブレスレット。そういった装身具が並んでいて、でも、ただの装身具ではないんです。
 こちらのお店で販売されているものは、どれも『木』でできていました。

「いらっしゃいませ、ようこそお嬢さん――ってリュカじゃないか! 先月は顔を見せなかったから心配してたんだよ! 元気にやってたかっ?」
「二か月ぶりだな、店主。先月もこの街に来てはいたのだが、訪ねる直前で急用ができしまったんだ」
「あ~、そうだったのか。新聞社の編集者さまは、やっぱ大変だなぁ」

 丸縁のメガネをかけた、二十代後半に見える陽気な男性。こちらのお店の責任者様がわたし達の前まで小走りでいらっしゃり、嬉しそうに竜神様の背中をバシバシと叩かれました。

「まあ元気ならいい――って言いたいところだが、心配かけた罰だ。必殺のデコピンを喰らいやがれってなっ!」
「ふ、必ず殺されるものを受けるつもりはない。残念だがソレは不発だ」
「く……! 相変わらず、異常に反射神経がいいよなぁ」
((……す、すごい……。わたしの国では、あり得ない光景ですね……))

 あの国の貴族は皆が皆、特権階級意識を持っていた――自分達は特別な人間だという感情を持っていました。
 正体を知らないとはいえデコピンをされたら大変なことになるような人達ばかりでしたので、おもわずドキッとしてしまいます。

「っと、失礼。お嬢さんを放置しちゃったな。リュカ、この方は?」
「友人だ。今日は、彼女にプレゼントをするために邪魔をした」
「え!? そ、そうなのですか!?」
「ああ、そうだ。この店主が作るアクセサリーはセンスが良く、美しい。今日の記念に何かを贈りたいと考え、真っ先にここが浮かんだんだ」
「ホント、いつもありがとうございます。こんなにも褒めてくれるのはリュカだけだよ」

 竜神様によると、3年前に立ち寄ってからファンになったそう。
 こちらで販売されているものは、すべてが一点もの。店主様の作品にはこだわりが詰まっていて、そちらをいたく気に入られたみたいです。

「気に入ったものがあればそちらにするし、迷うのならば選ばせてもらおう。時間はある、とりあえずゆっくり見て欲しい」
「あ、ありがとうございます。見させていただきますね」

 そうして急遽、竜神様からの頂き物を探すことになって――

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