11 / 37
第6話 はじめての ミシュリーヌ視点(2)
しおりを挟む
「……やはり、ここがしかない。加えて、お誂えなものがあるしな」
「? 竜神様……?」
立ち止まられた竜神様は、お店を眺めながら何かを仰りました。
出入口の前に、パペットやたくさんの鉢――カラフルなお花を並べている、賑やかな雰囲気を放つ『リッカ―ル』という名前のお店。こちらが、どうかされたのでしょうか……?
「ミシュリーヌ、ここも俺の行きつけなんだ。共に入ってもらいたい」
「そうだったのですね。竜神様のお気に入りのお店、わたしも気になります」
「そうか、ありがとう。では――ああそうだ。店内では俺のことを、リュカと呼んで欲しい。店主には正体を隠し、とある新聞社の編集者だと伝えているんだ」
「は、はい。リュカさま――リュカさんと呼ばせていただきます」
竜神様ではなく、編集者のリュカさん。リュカさん。リュカさん。リュカさん。リュカさん。
うっかり言い間違えてしまわないように心で念を押しながら、竜神様が開けてくださった扉を潜ります。そうしたら――
「わぁ。素敵……!」
――ネックレスやイヤリングやブレスレット。そういった装身具が並んでいて、でも、ただの装身具ではないんです。
こちらのお店で販売されているものは、どれも『木』でできていました。
「いらっしゃいませ、ようこそお嬢さん――ってリュカじゃないか! 先月は顔を見せなかったから心配してたんだよ! 元気にやってたかっ?」
「二か月ぶりだな、店主。先月もこの街に来てはいたのだが、訪ねる直前で急用ができしまったんだ」
「あ~、そうだったのか。新聞社の編集者さまは、やっぱ大変だなぁ」
丸縁のメガネをかけた、二十代後半に見える陽気な男性。こちらのお店の責任者様がわたし達の前まで小走りでいらっしゃり、嬉しそうに竜神様の背中をバシバシと叩かれました。
「まあ元気ならいい――って言いたいところだが、心配かけた罰だ。必殺のデコピンを喰らいやがれってなっ!」
「ふ、必ず殺されるものを受けるつもりはない。残念だがソレは不発だ」
「く……! 相変わらず、異常に反射神経がいいよなぁ」
((……す、すごい……。わたしの国では、あり得ない光景ですね……))
あの国の貴族は皆が皆、特権階級意識を持っていた――自分達は特別な人間だという感情を持っていました。
正体を知らないとはいえデコピンをされたら大変なことになるような人達ばかりでしたので、おもわずドキッとしてしまいます。
「っと、失礼。お嬢さんを放置しちゃったな。リュカ、この方は?」
「友人だ。今日は、彼女にプレゼントをするために邪魔をした」
「え!? そ、そうなのですか!?」
「ああ、そうだ。この店主が作るアクセサリーはセンスが良く、美しい。今日の記念に何かを贈りたいと考え、真っ先にここが浮かんだんだ」
「ホント、いつもありがとうございます。こんなにも褒めてくれるのはリュカだけだよ」
竜神様によると、3年前に立ち寄ってからファンになったそう。
こちらで販売されているものは、すべてが一点もの。店主様の作品にはこだわりが詰まっていて、そちらをいたく気に入られたみたいです。
「気に入ったものがあればそちらにするし、迷うのならば選ばせてもらおう。時間はある、とりあえずゆっくり見て欲しい」
「あ、ありがとうございます。見させていただきますね」
そうして急遽、竜神様からの頂き物を探すことになって――
「? 竜神様……?」
立ち止まられた竜神様は、お店を眺めながら何かを仰りました。
出入口の前に、パペットやたくさんの鉢――カラフルなお花を並べている、賑やかな雰囲気を放つ『リッカ―ル』という名前のお店。こちらが、どうかされたのでしょうか……?
「ミシュリーヌ、ここも俺の行きつけなんだ。共に入ってもらいたい」
「そうだったのですね。竜神様のお気に入りのお店、わたしも気になります」
「そうか、ありがとう。では――ああそうだ。店内では俺のことを、リュカと呼んで欲しい。店主には正体を隠し、とある新聞社の編集者だと伝えているんだ」
「は、はい。リュカさま――リュカさんと呼ばせていただきます」
竜神様ではなく、編集者のリュカさん。リュカさん。リュカさん。リュカさん。リュカさん。
うっかり言い間違えてしまわないように心で念を押しながら、竜神様が開けてくださった扉を潜ります。そうしたら――
「わぁ。素敵……!」
――ネックレスやイヤリングやブレスレット。そういった装身具が並んでいて、でも、ただの装身具ではないんです。
こちらのお店で販売されているものは、どれも『木』でできていました。
「いらっしゃいませ、ようこそお嬢さん――ってリュカじゃないか! 先月は顔を見せなかったから心配してたんだよ! 元気にやってたかっ?」
「二か月ぶりだな、店主。先月もこの街に来てはいたのだが、訪ねる直前で急用ができしまったんだ」
「あ~、そうだったのか。新聞社の編集者さまは、やっぱ大変だなぁ」
丸縁のメガネをかけた、二十代後半に見える陽気な男性。こちらのお店の責任者様がわたし達の前まで小走りでいらっしゃり、嬉しそうに竜神様の背中をバシバシと叩かれました。
「まあ元気ならいい――って言いたいところだが、心配かけた罰だ。必殺のデコピンを喰らいやがれってなっ!」
「ふ、必ず殺されるものを受けるつもりはない。残念だがソレは不発だ」
「く……! 相変わらず、異常に反射神経がいいよなぁ」
((……す、すごい……。わたしの国では、あり得ない光景ですね……))
あの国の貴族は皆が皆、特権階級意識を持っていた――自分達は特別な人間だという感情を持っていました。
正体を知らないとはいえデコピンをされたら大変なことになるような人達ばかりでしたので、おもわずドキッとしてしまいます。
「っと、失礼。お嬢さんを放置しちゃったな。リュカ、この方は?」
「友人だ。今日は、彼女にプレゼントをするために邪魔をした」
「え!? そ、そうなのですか!?」
「ああ、そうだ。この店主が作るアクセサリーはセンスが良く、美しい。今日の記念に何かを贈りたいと考え、真っ先にここが浮かんだんだ」
「ホント、いつもありがとうございます。こんなにも褒めてくれるのはリュカだけだよ」
竜神様によると、3年前に立ち寄ってからファンになったそう。
こちらで販売されているものは、すべてが一点もの。店主様の作品にはこだわりが詰まっていて、そちらをいたく気に入られたみたいです。
「気に入ったものがあればそちらにするし、迷うのならば選ばせてもらおう。時間はある、とりあえずゆっくり見て欲しい」
「あ、ありがとうございます。見させていただきますね」
そうして急遽、竜神様からの頂き物を探すことになって――
4
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです
シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」
卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?
娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。
しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。
婚約破棄されている令嬢のお母様視点。
サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。
過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる