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第4話 はじめての天地村(5)
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「あら? もうこんな時間なのね」
「いつの間にかこんなになってたのか。まだ足りねぇが、今日のところはぼちぼちお開きにするか」
気が付くと壁にある時計は、午後の7時を指していました。
時間としてはまだそこまでなのだけど、今日は引っ越し初日。これから新居の確認や車に積んでいる荷物の搬入などがある。操形さんと頷き合った心問答さんが立ち上がり、パンと柏手を打って注目を集めました。
「今日の主役の嬢ちゃんは、これからまだやることがあるんでな。今回の会はここまでにする」
「「「「「え~!」」」」」
「「「「「え~!」」」」」」
「え~、じゃねぇよ。やることがあるって言ってるだろ。嬢ちゃんはこれからこの村に居てくれるんだ。我慢しろ」
皆さんわたしに興味を持ってくださっていて、名残惜しそうにしてくれている。そんな様子に自然と笑みが浮かんでいると、心問答さんがやって来た。
「すっかり陽が落ちてる、自転車は危ないからな。家まで送ってくよ」
「助かります。お世話になります」
「安倍は付き合いで酒を飲まされるのは分かってたから、最初から運転係になるつもりだったんだ。気にするな」
「なーんて言ってるけど、シンは下戸なの。全然気にしなくていいのよ」
「余計なことを言うなっての! ほらっ、いくぞ嬢ちゃん! 明彦もさっさと乗れ!」
また操形さんとじゃれ合って、わたし達の手を引っ張ってそそくさと役場を出る。それからわたし達は心問答さんの車で夜の空の下を走り、その車は住宅エリアにあるピカピカの二階建ての家の前で止まりました。
「ここが嬢ちゃんに住んでもらう家だ。さっきも言っていたが、一週間前にできたばかりのアヤ謹製――というか、人形謹製の新築中の新築だぜ」
操形さんの力は、お人形を自在に生み出し操れる。安倍さんが知り合いの建築士の方に設計をしてもらい、その図面をもとに50体くらいの日本人形がせっせと作業を行ってくれていたそう。
ちなみにあやかしさんの住居や役場、お土産屋など、この村にある建物は全てそうやって造られているのだとか。
「明彦。ちゃんと嬢ちゃんに見せてくれてるよな?」
「抜かりなく。外観と内装の写真をお送りしていますよ」
設計の際にわたしが使いやすいように意見を取り入れてくださって、完成後も不満点などないか事細かに確認してくださった。おかげで住みやすいだけではなくて、仕事もしやすい建物になりました。
「了解、じゃあ細かい説明はなしでもよさそうだな。もうそろそろ――って言ってたら追いついたな。力比(りきひ)、頼んだぞ」
「あいあい。任せてや」
自転車に乗って現れたスキンヘッドで筋骨隆々の男性は、とにかく力持ちのあやかしさん。建築に必要な材料をすべてひとりで運べるほどで、私物が詰まったバッグやキャリーケース、前の家から持ってきた家具など、あっという間に軽々と運び込んでくださった。
「もう終わったみたいやんね? ワイの出番は終わり?」
「ああ、終わりだ。ご苦労さん」
「お安い御用やで。ほな帰らせてもらうさかい。アドバイザーさん、またの」
「ありがとうございました」
搬入してくださったお礼を済ませ、それから改めて確認。家具などの設置が済んだ1階の生活スペースと2階の仕事スペースを実際に歩いて雰囲気を確かめ、引っ越し作業は完了となりました。
「皆さんが手伝ってくださったおかげで、まったく苦労がありませんでした。重ね重ね感謝いたします」
「なーに、当たり前だ。嬢ちゃん、改めて今日からよろしくな」
「僕からも言わせてください。水前寺さん、よろしくお願い致します」
「はい。明日から、精一杯尽力させてもらいます」
一か月の間にアイディアを練って来たし、天地村に来て、そして歓迎会の中で思いついたアイディアもある。わたしはしっかりとビジョンを描きながら差し出された手を順番に握り、こうしてわたしの天地村暮らしが幕を開けたのでした。
「いつの間にかこんなになってたのか。まだ足りねぇが、今日のところはぼちぼちお開きにするか」
気が付くと壁にある時計は、午後の7時を指していました。
時間としてはまだそこまでなのだけど、今日は引っ越し初日。これから新居の確認や車に積んでいる荷物の搬入などがある。操形さんと頷き合った心問答さんが立ち上がり、パンと柏手を打って注目を集めました。
「今日の主役の嬢ちゃんは、これからまだやることがあるんでな。今回の会はここまでにする」
「「「「「え~!」」」」」
「「「「「え~!」」」」」」
「え~、じゃねぇよ。やることがあるって言ってるだろ。嬢ちゃんはこれからこの村に居てくれるんだ。我慢しろ」
皆さんわたしに興味を持ってくださっていて、名残惜しそうにしてくれている。そんな様子に自然と笑みが浮かんでいると、心問答さんがやって来た。
「すっかり陽が落ちてる、自転車は危ないからな。家まで送ってくよ」
「助かります。お世話になります」
「安倍は付き合いで酒を飲まされるのは分かってたから、最初から運転係になるつもりだったんだ。気にするな」
「なーんて言ってるけど、シンは下戸なの。全然気にしなくていいのよ」
「余計なことを言うなっての! ほらっ、いくぞ嬢ちゃん! 明彦もさっさと乗れ!」
また操形さんとじゃれ合って、わたし達の手を引っ張ってそそくさと役場を出る。それからわたし達は心問答さんの車で夜の空の下を走り、その車は住宅エリアにあるピカピカの二階建ての家の前で止まりました。
「ここが嬢ちゃんに住んでもらう家だ。さっきも言っていたが、一週間前にできたばかりのアヤ謹製――というか、人形謹製の新築中の新築だぜ」
操形さんの力は、お人形を自在に生み出し操れる。安倍さんが知り合いの建築士の方に設計をしてもらい、その図面をもとに50体くらいの日本人形がせっせと作業を行ってくれていたそう。
ちなみにあやかしさんの住居や役場、お土産屋など、この村にある建物は全てそうやって造られているのだとか。
「明彦。ちゃんと嬢ちゃんに見せてくれてるよな?」
「抜かりなく。外観と内装の写真をお送りしていますよ」
設計の際にわたしが使いやすいように意見を取り入れてくださって、完成後も不満点などないか事細かに確認してくださった。おかげで住みやすいだけではなくて、仕事もしやすい建物になりました。
「了解、じゃあ細かい説明はなしでもよさそうだな。もうそろそろ――って言ってたら追いついたな。力比(りきひ)、頼んだぞ」
「あいあい。任せてや」
自転車に乗って現れたスキンヘッドで筋骨隆々の男性は、とにかく力持ちのあやかしさん。建築に必要な材料をすべてひとりで運べるほどで、私物が詰まったバッグやキャリーケース、前の家から持ってきた家具など、あっという間に軽々と運び込んでくださった。
「もう終わったみたいやんね? ワイの出番は終わり?」
「ああ、終わりだ。ご苦労さん」
「お安い御用やで。ほな帰らせてもらうさかい。アドバイザーさん、またの」
「ありがとうございました」
搬入してくださったお礼を済ませ、それから改めて確認。家具などの設置が済んだ1階の生活スペースと2階の仕事スペースを実際に歩いて雰囲気を確かめ、引っ越し作業は完了となりました。
「皆さんが手伝ってくださったおかげで、まったく苦労がありませんでした。重ね重ね感謝いたします」
「なーに、当たり前だ。嬢ちゃん、改めて今日からよろしくな」
「僕からも言わせてください。水前寺さん、よろしくお願い致します」
「はい。明日から、精一杯尽力させてもらいます」
一か月の間にアイディアを練って来たし、天地村に来て、そして歓迎会の中で思いついたアイディアもある。わたしはしっかりとビジョンを描きながら差し出された手を順番に握り、こうしてわたしの天地村暮らしが幕を開けたのでした。
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