こちら、あやかし村おこし支援課

柚木ゆず

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第5話 最初にやること(2)

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「この村の場合、特別なことをする必要はありません。『変わったことをしない』が一番の武器になるんですよ」

 昨日のお料理は最低限の味付けでも、おもわず夢中になってしまうくらいの美味しさがあった。素材の良さ、素材の味で勝負するべきだと思う。

「歓迎会で出してくださったようなお料理を新メニューとして打ち出しましょう。専門店の廃止、メニューの変更、そちらがお食事処に関する提案になります」

 店内店外の雰囲気や接客マニュアルなどには、問題がないと感じた。指摘をさせていただくのは、この2点だ。

「………………」
「………………」
「お二人とも、お気を確かに。常識とは常に破られ覆される存在ですよ」

 一番早くショックから回復した安倍さんがわたしの発言を手早くメモし、どうぞと促してくださった。

「食を推す。それに当たって行うべきだと考えていることが、他にもありまして。そちらが、試食会になります」
「試食会……?」「試食会……?」
「県内の色々な場所に出向き、食べ物を――天地村で採れたものを使った料理を、食べてもらうんですよ」

 スーパーマーケットやイベント会場などでよく見かける、アレです。

「どんなに美味しくても、認知されていなければ意味がありません。無料で振る舞い、天地村の味を知っていただくのですよ」
「確か、水前寺さんは」
「はい。こちらはわたしが、ウチのレストランを盛り上げるために行ったことです」

 客観的に見てもウチの店の味はかなりレベルが高く値段もお手頃なのに、お客様の数が少なかった。確実に、閉業の影が迫って来ていた。
 どうしようかと考えた時にとにかく『知って』もらわないと始まらないと感じ、近くのスーパーマーケットやイベントと交渉し、そういった場を設けさせてもらった。

「無料ですので黒字はあり得ず、逆に赤字になってしまいます。ですがそうすることで食べていただいた方に、確実に天地村の味を知っていただけるんですよ」
「長い目で見たら、プラス、だな」
「そう考えています。ウチのレストランもそれによって認知度があがりまして、その後前の月よりおよそ34パーセントお客様が増えました」

 美味しかったから食べに来てみたよ――。他の料理も気になってね――。そういった理由で興味を持ってくださり、来店してくださる方が少なくありませんでした。

「こちらに関しては、実体験を基とした提案となっておりまして。レストランと村、立場や状況は異なりますが、それでも良い方向に進むと思っております」
「嬢ちゃんの活躍は知ってる。そんな嬢ちゃんが言うんなら」
「間違いないのでしょうね」

 決定は多数決となるためこの場では決まらないものの、心問答さんも操形さんも大きく頷いてくださった。
 少なくともこの場に居る村人さん全員に納得していただけたので、提案タイムは一旦お仕舞い。この件に関してはとある理由で少しでも早めに動かないといけなくなったため、会議の方も一旦中断をして、多数決を取ることにしたのでした。


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