私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果

柚木ゆず

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第8話 回想~私と副会長~

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 ――『お優しくて頼りになる方』。それが、『好きな方』に変わるのは、あっという間だった。

「副会長に選出されました、トリスタン・ロールドと申します。本日より貴方の右腕として、誠心誠意支えさせていただきます」

 選挙後にあった、顔合わせの日。この学び舎では得票率の上位2人が会長、副会長になる規則があり、遥かに格下の家の人間に負けるのは面白くないはずなのに――。トリスタン様は心から当選を祝福してくださり、その日以降縁の下の力持ちとなってくださった。
 そして、これは偶然お見掛けしたことなのだけれど。

『あのトリスタン様が2位なんてあり得ない』
『マリエット・リュシアが票を細工したんだ』
『男子生徒に色目を使って票を増やしたんだ』

 などなど。選挙から数か月経っても、そんなことを言うトリスタン様派の女子生徒がいて。その日も根も葉もない陰口を言われていて、でも、

「君達、僕を評価してくれるのは有難い。けれどね、それは大間違いだよ。彼女が僕より優れていたから、あのような結果になっただけだ」
「「「「「で、ですが……。トリスタン様は、侯爵家ですし――」」」」」
「僕は偶々、ロールド家に生まれただけだ。家と個人の能力は関係がなく、家柄で人を判断するのは愚の骨頂だよ?」
「「「「「そっ、そうですけどっ! ですけどっ! 実際に、実力はトリスタン様の方が――」」」」」
「実力はどちらが上か? それは、マリエット会長の日々の姿を見ていればよく分かるはずだよ。機転が利いて、物事を俯瞰するができて、なにより思い遣りがある。現在この学び舎に、彼女以上に生徒会長が適任な者がいるかい?」
「「「「「………………」」」」」
「ね? あの選挙に、不正なんてなかった。史上初の、子爵家所属の生徒会長。それには、理路整然とした理由があるんだよ」

 トリスタン様は、はっきりとそう仰ってくださって。
 そんな姿を見ていたら顔がボッと熱くなって、心臓が張り裂けそうなくらいドキドキして――


 ぁ。私、この方を好きなんだ。


 ――今でも、その時のことは忘れない。忘れることなんて、できない。
 3月5日の、午後4時8分。
 私は生まれて初めて、恋をしたのだった。





 


 すみません。ご報告をさせていただきます。

 明日は視点が移動し、同時刻にマリエットの家で起きていることを描かせていただきます(妹ミレーヌについてのお話を、投稿させていただきます)。
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