私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果

柚木ゆず

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番外編その1 3人の1年後 俯瞰視点(5)

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「まっ、待ってくれ!! わっ、分かった!! その要求を呑むっ!! 払うっ!!」

 最後の一人が、部屋を出る直前。大量の脂汗を浮かべていたドミニクは、苦しみに満ちた声を絞り出しました。

「1人50万増っ! 毎月250万を支払うようにするからっ!! 行かないでくれっ!! 
戻ってきてくれっっ!!」
「そういう事でしたら、話は変わりますね。当主殿。今後も皆様を、誠心誠意お守致します」

 こうすれば、必ず応じる――。10人にはそういった考えがあり、ドミニク達もまた、その考えは理解していました。
 けれど、こうするより他はない。そのためドミニクもノエラもミレーヌも不満を口にすることはできず、

((足もとを見やがって……!!))
((平民のくせに……っ!!))
((ごみが生意気に……っっ!!))

 心の中で暴言をばら撒き、ペコペコと頭を下げました。

「ではオレ達は引き続き、周辺の警備などを行いますので」
「お三方はここで、のんびりとお過ごしくださいませ」
「「「は、はいっ。ありがとうございます……!!」」」

 そうして3人は胸を撫で下ろし、ホッと――することは、できません。なぜならこの選択によって、とある問題が生まれてしまったからです。

(ねえあなた、どうしましょう……。このままだと、そう長くはもたないわよ……)

 すでに懐事情が厳しい中での、報酬増加。あらゆるものを売り払っても、半年から1年以内には破綻してしまうのでした。

(お父様…………お金がなくなれば、アイツらは必ず去りますわ……。戦力が、なくなってしまいますわ……。どうしたら、いいんですの……?)
(そうなれば、結局はおんなじよ……。ねえあなた……。どう、しましょう……)
(…………大丈夫、大丈夫だ……っ。きっと、大丈夫だ……っ。もう、あれから1年と2か月が経っているんだ……っっ。その頃までには、仕掛けてくる……!)

 この台詞には希望的観測が多く含まれていますが、あの目は本気――3人は、そう感じていました。そのため、

(そうね……っ。そうよね……っっ。きっとそうね……っ)
(ええ……っ。きっと……っ。きっと、そうですわ……っっ。たくさん払ったんですもの……っ。しっかり、働いてもらいますわ……!!)

 ノエラもミレーヌも同調し、この日から少々おかしな日々がスタート。トリスタンの影に怯えつつトリスタンのお返しを望むという、不可思議な状態となりました。

「不安だ……。だが、来い……!」
「恐ろしいけれど……。はやく、来なさい……っ」
「怖いけど……。はやく、はやく……!」

 そうして3人は今夜も一か所に固まりつつ、その時を待ちますが――。

 トリスタンは、何もしません。

 そのため『お返し』が発生することはなく、やがて報酬を支払えない時が訪れてしまい――

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