私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果

柚木ゆず

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番外編その1 3人の1年後 俯瞰視点(6)

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「ひぃ……。ひぃぃ……!!」
「ぁぁぁ……。ぁぁぁ……!!」
「ひっ……っ。ぁ、ぅ、ぁぁぁ……っ」

 平民相手に土下座をした日から、8か月後の深夜――。リュシア邸内の、リビングスペース。その中央には、抱き合って震える3人の姿がありました。

「今の物音は、風が原因、だよな……? そう、だよな……!?」
「え、ええ……っ。きっと、そうよ……っ。ねっ、ミレーヌ……っ!」
「そ、そうに決まってますわっ! 自然によるもの……っ。トリスタンとは無関係なものに決まってますわ……っっ!」

 報酬を支払えなくなったことにより、頼れる『戦士』は0。そして給与を出す余裕もなくなってしまったため、懇願によって情けによって食料だけは定期的に届けてもらえることになっていますが――。使用人達は、全員が退職していました。
 そのため邸内にいる人間は3、自分達のみ。もしも『お返し』が発生してしまえば簡単に殺されてしまうので、ミレーヌ、ドミニク、ノエラは、これほどまでに怯えていたのです。

「い、1年10か月も、現れていないんですもの……っ。今夜も、きっと、何もないわ……っ。ね、ミレーヌ……っ」
「そ、そうですわ……っ。悪い事は、なにも起きませんわ……っ。ぜったいに――ひいいいいいいっ!?」

 風が吹いたことによって、窓の外で小さな音がしました。今の3人にとってはこんな音さえも恐怖の対象で、揃って小さく飛び上がりました。

「きょ、今日は天気は悪くない……。2回連続でこんな音がするという事は……。トリスタンの仕業……? もしや……。ずっと、この時を……。警備がなくなる時を、待っていたのか…………⁉」
「「……………………」」

 違う! 絶対にそうじゃない!! 何か考えがあって、まだ行動を起こしてないだけ!! 今日は何もされない!!
 ミレーヌとチエラはそう叫びたいのですが、あの鋭く冷たい目があります。そのため今夜も否定をできず、

「今度の物音は大きい!! 来たのかぁっ!?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃああああああああああああっ!!」

「ねえっ! 今っ、2階で足音がしなかった!?」
「わっ、わたしは聞こえなかったぞっ!? ミレーヌは聞こえたのかっ!?」
「聞こえてませんわっ!! でっ、でも聞き逃したのかもしれませんわぁっ!!」

 ひっきりなしに慌てふためき、震え上がります。

「ひぃぃ……。ひぃぃぃ……!!」
「ぁぁぁぁ……。ぁぁぁぁ……!!」
「ひっっ……っ。ぁ、ぅ、ぅぅ、ぁぁぁ……っ」

 固まって怯えて、小さな音に反応して怯えて、3人だけという状況に怯えて。
 ずっと、怯えっぱなし。


『すっかり騙されていましたわ。けれど、それも今日まで。リングもネックレスもイヤリングも、わたくしが貰っておきますわ』
『無論、拒否は不可能だぞ。長年嘘を吐いた罰だ』
『次にこんな真似をしたら、ただではおかないわよ。二度とこんな小細工はしないようにしなさい』


 かつて長女マリエットに理不尽な振る舞いをし続けた、ミレーヌ、ドミニク、ノエラ。そんな3人の毎日は更に悪化してしまい、マリエットのように――当時のマリエット以上に、つらく苦しいものとなってしまったのでした。

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