才能取扱い店 二好屋

柚木ゆず

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8 その後 ●●●

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「ははは。ははは……。すべて、おわっちゃった……」

 誰も居なくなった、控え室。静まり返った部屋で私は立ち尽くし、呆然と言葉を零していた。
 前半は結果を残せていても、無意味。約束は、約束。私は音楽の道を閉ざされ、別の道を歩まないといけなくなってしまった……。

「こ、こんなはずじゃなかったのに……。今頃、満面の笑みを浮かべて祝福されていたはずなのに……」

 現実は、真反対。駆け寄ってきてくれるはずだった友達は、みんな顔を引き攣らせて帰っていった。光り輝く舞台で幸福の絶頂を味わうはずだった私は、暗い静かな部屋で独り絶望している。

「……どう、して? どうして、こうなってるの……?」

 この日のために用意した華やかな衣装を涙で濡らし、視界が水滴で塞がれた目を天井に向ける。

「私は、天才になったのに……。最高の才能を得たのに……」

 この、結果。今迄みたいに――今迄以上に情けない姿を、晒してしまった。最悪の形で、音楽人生を終えてしまった。

「どうして。どうして……っ。どうして……っっっ! こう、なったの……?」

 髪を掻き毟り。手の平に爪を食い込ませて。
 皮膚に血を滲ませながら。ずっとケアしてきた爪が剥げそうになりながら。
 嘆いて、怒って。嘆いて、怒って。ますます私は、絶望の海に沈んでいく。

「あんなに上手く、弾けていたのに……っ。確かに実力がついていたのに……っっ。なんで……。どうして……。こうなってるの……!?」


《天才に、溺れてしまったからよ》


 突然。耳に、じゃない。頭の中に、聞き覚えのある女性の声が響いてきた。

「ぁ、その声は……っ。その声は……っっ」


《まあ募る話、人生の反省会はこっちでしましょうか。お疲れ様、吉祥翠さん》


「えっ? 『こっち』っ!? 『お疲れ様』って、なに――」

 たまらずそう叫んでいると、ぷつり。まるで電源を切られたTVのように、私の意識は途切れてしまったのだった。
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