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第4話 反撃その1(1)
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「お姉ちゃん、肩とか脚が凝ったの。今すぐ私の部屋に来て、マッサージをしなさい」
睡眠を行ってから9時間後の、午後1時過ぎのことでした。細やかな昼食を摂っていたらそんな命令が出て、あたしは今日も硬いパンを詰め込んでララの部屋に向かいました。
これは妹が時々出してくる、嫌がらせをするための指示。こうなると一時間以上行わされて指や腕が痛くなるのですが、今日は好都合。密かに希望していた労働が発生しました。
「ララ様。お部屋に失礼致します」
「髪の毛とかを落としたら、お尻叩きだからね? 気をつけなさいよ」
「承知致しました。ララ様、本日はどこからお揉みすればよろしいのでしょうか?」
「いつも通り肩から始めて、今日は足の裏まで全部。ほらさっさと始めなさい」
ララは豪華な椅子に座って顎でしゃくり、あたしは一礼をして両肩を揉み始めます。
本来なら自分には、後悔して従順になる催眠術がかかっていますからね。今はそのフリをして、誠心誠意ご奉仕します。
「ララ様。力加減は、このくらいで構いませんか?」
「ええ、そのままでいいわ。でも今日は、肩を長めに揉みなさい。昨日お姉ちゃんをお仕置きしないといけなかったせいで、右側の腕とかが疲れてるのよ」
「はい。畏まりました」
昨日は私の掃除にあれやこれやと文句をつけて、お母様と二人でお尻を何度も叩かれました。あの時は必要以上に力を込めていた上に、普段よりも回数が多かった――いつも以上にストレスを発散させていたので、疲労が溜まりますよね。
「まったく、駄目で愚かな姉を持つと苦労するわ。その歳になって教育が必要な姉なんて、聞いた事がないわよ」
「そう、ですよね。すみません」
「同じ家で育った人間とは思えないくらい、お姉ちゃんは劣ってる。一応はおんなじ教育を受けたのにここまで違うって……。人は、生まれた時に良しあしが決まってるみたいね」
「そう、ですね。あたしがこうでララ様がそうなのですから、仰る通りです」
あたし達はいつものようにおかしなやり取りを行いながら、マッサージが進行。肩を揉んだ後は両腕を丁寧に揉みほぐし、それが終わるとララはベッドに移動して仰向けになりました。
ここからは、背中やお尻。あたしはいつものように「ベッドに触らせていただきます」と断りを入れ、「特別だからね」という理不尽な嘆息を聞きながら、マッサージを再開させました。
「ベッドが痛んできたみたいで、今朝から背中の真ん中あたりも凝ってるの。そこを重点的にやって」
「真ん中あたり、ですね。承知致しました」
「私もお姉ちゃんみたいに、固い床で寝た方が楽なのかもね。ああでもあんな場所で平然と眠れるのは、お姉ちゃんだけ。普通の人には無理よね、あんなの」
「はい、そうですね。自分も、そうだと思います」
内容は違えど普段通りの悪辣な言葉が飛んできて、あたしは同意をしながら背中のツボを押してゆきます。
ララに何度もマッサージを強制されたおかげで、随分と人体のツボに詳しくなりました。一見すると得るものはない行為でも、意外と利点はあるものですね。
「ぁ~、そこそこ……っ。ツボ押しは、お姉ちゃん唯一の才能よね」
「ご迷惑をお掛けし続けているあたしですが、ララ様達のお役に立てる部分があって嬉しいです。こちらをもう少しお揉み致しましょうか?」
「そうね。ここをしばらくやって頂戴」
妹は気持ちよさそうな声を漏らし、そこを数分押し続けると、やがて身体が動かなくなって寝息が聞こえるようになってきました。
これもいつもと同じ流れで、この子は毎回途中で眠ってしまうのです。
「…………すー。すー。すー。すー。すー…………」
姉は催眠術で従順になっている。そんな前提があるためララは安心していて、起きる気配は全くありません。
なので、はい。
いよいよ、行動を開始。本命への下準備をさせてもらいましょう。
睡眠を行ってから9時間後の、午後1時過ぎのことでした。細やかな昼食を摂っていたらそんな命令が出て、あたしは今日も硬いパンを詰め込んでララの部屋に向かいました。
これは妹が時々出してくる、嫌がらせをするための指示。こうなると一時間以上行わされて指や腕が痛くなるのですが、今日は好都合。密かに希望していた労働が発生しました。
「ララ様。お部屋に失礼致します」
「髪の毛とかを落としたら、お尻叩きだからね? 気をつけなさいよ」
「承知致しました。ララ様、本日はどこからお揉みすればよろしいのでしょうか?」
「いつも通り肩から始めて、今日は足の裏まで全部。ほらさっさと始めなさい」
ララは豪華な椅子に座って顎でしゃくり、あたしは一礼をして両肩を揉み始めます。
本来なら自分には、後悔して従順になる催眠術がかかっていますからね。今はそのフリをして、誠心誠意ご奉仕します。
「ララ様。力加減は、このくらいで構いませんか?」
「ええ、そのままでいいわ。でも今日は、肩を長めに揉みなさい。昨日お姉ちゃんをお仕置きしないといけなかったせいで、右側の腕とかが疲れてるのよ」
「はい。畏まりました」
昨日は私の掃除にあれやこれやと文句をつけて、お母様と二人でお尻を何度も叩かれました。あの時は必要以上に力を込めていた上に、普段よりも回数が多かった――いつも以上にストレスを発散させていたので、疲労が溜まりますよね。
「まったく、駄目で愚かな姉を持つと苦労するわ。その歳になって教育が必要な姉なんて、聞いた事がないわよ」
「そう、ですよね。すみません」
「同じ家で育った人間とは思えないくらい、お姉ちゃんは劣ってる。一応はおんなじ教育を受けたのにここまで違うって……。人は、生まれた時に良しあしが決まってるみたいね」
「そう、ですね。あたしがこうでララ様がそうなのですから、仰る通りです」
あたし達はいつものようにおかしなやり取りを行いながら、マッサージが進行。肩を揉んだ後は両腕を丁寧に揉みほぐし、それが終わるとララはベッドに移動して仰向けになりました。
ここからは、背中やお尻。あたしはいつものように「ベッドに触らせていただきます」と断りを入れ、「特別だからね」という理不尽な嘆息を聞きながら、マッサージを再開させました。
「ベッドが痛んできたみたいで、今朝から背中の真ん中あたりも凝ってるの。そこを重点的にやって」
「真ん中あたり、ですね。承知致しました」
「私もお姉ちゃんみたいに、固い床で寝た方が楽なのかもね。ああでもあんな場所で平然と眠れるのは、お姉ちゃんだけ。普通の人には無理よね、あんなの」
「はい、そうですね。自分も、そうだと思います」
内容は違えど普段通りの悪辣な言葉が飛んできて、あたしは同意をしながら背中のツボを押してゆきます。
ララに何度もマッサージを強制されたおかげで、随分と人体のツボに詳しくなりました。一見すると得るものはない行為でも、意外と利点はあるものですね。
「ぁ~、そこそこ……っ。ツボ押しは、お姉ちゃん唯一の才能よね」
「ご迷惑をお掛けし続けているあたしですが、ララ様達のお役に立てる部分があって嬉しいです。こちらをもう少しお揉み致しましょうか?」
「そうね。ここをしばらくやって頂戴」
妹は気持ちよさそうな声を漏らし、そこを数分押し続けると、やがて身体が動かなくなって寝息が聞こえるようになってきました。
これもいつもと同じ流れで、この子は毎回途中で眠ってしまうのです。
「…………すー。すー。すー。すー。すー…………」
姉は催眠術で従順になっている。そんな前提があるためララは安心していて、起きる気配は全くありません。
なので、はい。
いよいよ、行動を開始。本命への下準備をさせてもらいましょう。
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