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第19話 最悪の手紙 エミリアン視点

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「…………エミリアンよ。よくないことが書かれていたようだな……?」

 ヴァルソリク卿を味方につけてから、5日後のことだった。俺は予想外の手紙を受け取ることになってしまった。

「非常によくない……。最悪といえる事態が、発生してしまいました」

 昨夜の出来事――ゴキブリの件によってクリストフが激昂し、奇声を発しながら屋敷を飛び出してしまったこと。その際に暴力を振るわれたこと。にもかかわらず当主夫妻はアニエスを激しく叱責し、部屋からの移動および食事を禁じられてしまっていること。
 あまりにも理不尽な出来事の数々を、隣にいた父上に伝えた。

「……アレらは、貴族の中の貴族だな……。これ以上、評価に下がる余地があったとはな……」
「いつもあの3人は、こちらの想像を超えていってくれますよ」

 悪い意味で。

「…………エミリアン。この問題は、時間が解決してくれると思うか?」
「思いません。ありえないでしょうね」

 クリストフのような男が『アニエス=エリス』ではないのだとそこまで認識してしまったら、時間が経っても認識は変わらない。
 頭が冷えてある程度理性が戻っても、アニエスへの興味はなくなるだろう。これまでのような時間は戻っては来ない――これ以上時間稼ぎはできず、計画の準備完了まで待ってはいられなくなった。

「……不要になり、婚約解消の申し出がある。とも、ならんだろうな……」
「あの3人なら、そうはしないでしょうね。アニエスに八つ当たりをするはずです」

 お前のせいで辛い思いをした!! お前が中途半端に似ているせいだ!! などと言って、何かしらをしてくる。
 逆ギレしている人間がアレだから、最悪殺害されてしまう可能性だってある。

「一刻も早く、アニエス君を救出せねばならん。ならんの、だが……。どうやって助け出すかだな……」

 アニエスはアリズランド邸内に軟禁されている。自力では抜け出せないし、外からの侵入もできない。警備の目が光っていて、窓から脱出させることさえもできやしない。

「その状況なら、ヴァルソリク卿の威光も意味がありませんね。…………。でも……」
「エミリアン……?」
「……………………方法がない…………わけではありません」

 これまで準備してきた『武器』を総動員しても、アニエスを救い出せはしない。
 つまり――。
 これまで準備してきた『武器』以外の武器を用意出来たら、可能性はある。その成功率は100パーセントではない――むしろ低い値になってしまうが、それでも可能性はある。

「たとえ小さくても、あるなら成功する未来はある。父上、出ます」

 俺はすぐさま屋敷を飛び出し、馬車に乗り込んで――




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