わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?

柚木ゆず

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第14話 報告と来訪 エミリー視点(2)

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「やっとお会いできましたね、エミリー様。わたくしの行動が、このような形でお役に立つとは思いませんでしたわ」

 ダイヤモンドの粉末を纏われていると感じる、キラキラとした高貴な雰囲気をお持ちの女性。おもわず憧れを抱く女性。
 柔和な微笑みを浮かべられているこの方こそが、アンジェリク・ゼルアレー様。わたしの、もうひとりの恩人様です。

「アンジェリック様が興味を持ってくださったことで、あの3人は右往左往する羽目となりました。画家の卵としてだけではなく人間としても、感謝しております」
「わたくしの提案が、たまたまそういった結果を招いただけ。そしてわたくしが居なくても、スムーズに解決していた問題です。一度はいただきますが、それ以上の感謝は不要ですわ」

 穏やかに一度首を縦に振り、そのあとゆったりと横に振る。アンジェリク様はそんな風に配慮の言葉をくださり、更には意図的にすぐ話題を切り替えてくださって、他愛もないお話しを5分ほどした頃でしょうか。
 話題がわたしが描いた絵の話に移り、そうするとすぐに微苦笑を浮かべられました。

「わたくしも目も、まだまだですわね。あんなにも大事な部分を感じ取れないだなんて」
「? それは、どういった……?」
「リシャール様とお話しをした際に伺いました。貴方様は何年間も、常時悪意の中で過ごされていたのだと。そんな状況下で描かざるを得なかった絵は、100パーセントが込められたものであるはずがない。そう、気付くことができませんでした」

 技術はもちろんのこと、状況は――心理状態は、タッチや色に大きく影響が出てしまう。にもかかわらず『アドバイスをしたい』などと、失礼なことを思ってしまった。
 アンジェリック様としてはそういった部分が許せなかったそうでして、わざわざ謝罪まで行ってくださりました。

「エミリー様、だからわたくしは思っていることがあります。お詫びのあとにお願いをするなんておかしな話ではありますが、聞いていただけますか?」
「もちろんでございます。どういったものなのでしょうか?」
「あの絵をもう一度描いて、そちらを展示させていただきたい。それがわたくしからの依頼です」

 本当の『あの絵』を見てみたい。それを紹介したい。
 そんな思いが、アンジェリック様にはおありでした……。

「……………………。新しく……」
「無理を言って申し訳ございません。わたくしの我が儘なのですから、忌憚なきお返事をお願い致します」
「す、すみません。そうではないのですっ。実はわたしも、新たなに描いた同じ絵を代わりに、とお願いさせていただこうと思っておりまして……。アンジェリック様が仰られたので、驚いてしまっていたのでございます」

『その際には、アンジェリック様にお伝えしたいことがあるんだよね? 受け入れてくださるといいね』
『許可をいただけると、幸せです。性質上実現は難しいとは思いますが、お願いをさせていただきます』

 技術面もそうですが、なにより、あの絵は未完成でした。
 マリオン達が居る影響で、描けなかった部分がある。それはとても小さなものですが、本当はどうしても外したくなかったものなんです。

「まあ、そうでしたか。でしたら」
「はい。喜んで制作をさせていただきます」

 1か月後の搬入日までに仕上げる。差し出された御手を取って約束を交わし、更に30分ほどお話しをさせていただいたあと、公務が控えているためアンジェリック様はお帰りになられました。
 ですのでわたしは早速、筆とパレットを用意して――




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