わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?

柚木ゆず

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エピローグ エミリー編 エミリー視点

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「本日はお集まりいただき感謝いたします。…………。それでは始めさせていただきます」

 アンジェリック様がいらっしゃった日から1か月と2日後。今日は展示した絵を制作者が解説する日。
 わたしは100人以上も存在するオーディエンスの方々を見回し、

《頑張って》
《はい。頑張ります》

 その中で見守ってくださっているリシャールさんに目配せを行い、後ろにある絵を見つめました。

「タイトル、『大切なもの』。こちらは『ロースエルシャン湖』が舞台となっています」

 美しい山岳と青々とした湖が中心となった絵。なぜここを選んだのかというと、この場所はおばあ様と一番多く訪れた場所だったからです。

「この場所でわたしは大切な人と山や水面や水鳥や空を眺め、色々なことを話しました。その時間は当時のわたしの唯一の心の癒しで、一生忘れることのない思い出を生んでくれた時間。ですので鮮明に描きつつも、ところどころ『ぼかし』と輝きを入れております」

 ずっとわたしの心の中心で輝き続ける、大事な思い出。そういった意味を込めて、そのような演出を加えました。

「以上が、1枚目の――『リュミエール』に出展した際の絵になります。……ここからは皆様に、2枚目の――現在目の前にある絵にのみ存在する点を説明させていただきます」

 オーディエンスの皆様に一礼を行ったわたしは、絵の右端へと視線を動かします。

「こちらの切り株に載っている、銀杏のブローチ。こちらはわたしの大切な人である祖母の形見になります。諸事情で当時は加えることができず、今回アンジェリック様に機会をいただき、新たに加えました」

 マリオン達はおばあ様が大嫌いで、そんなものを描いたら何をされるか分からない。元家族による妨害を防ぐため、あの時は描けなかったのです。

「そして反対――向かって左側にあります細い木にもたれかかっている――実は細い木を支えてくれている、パレットと筆。こちらはわたしの大切な親友、大事な人、そして恩人のリシャール・チュワヴァス様を表したものとなっております」

 わたしが置かれている状況を知るや、助けると言ってくれた人。ずっと必死になって動いてくれて、励ましてくださっている人。
 リシャールさんを表したものを描きたかったのですが、この光景の中に筆やパレットがあるのは不自然。もしもマリオン達が違和感を覚えてしまったら万が一があるため、諦めていたのです。

「……こちらが本当の『大切なもの』の内容でして、それに加えわたしはあの日から今日までに、『素晴らしい環境』をいただきました。今回はそれらを作品に注ぎ込むことができまして、こちらこそが今のわたしの100パーセント――真の、『大切なもの』となっています」

 色も線もそう。今だからこそ可能となった部分が、いくつもありました。
 ですから、真。今回はちゃんと、自信を持って送り出せます。

「…………皆様。最後に、私的な発言をお許しください」

 どうしても声にしたいことがありました。なのでこの場をお借りして、口にさせていただきます。


「おばあ様、ありがとうございます。リシャールさん、ありがとうございます」


 おばあ様が居てくださるおかげで、わたしは挫けず生きていることができました。だからこそリシャールさんと出会えて――リシャールさんのおかげでわたしは今も、こうして生きていけます。
 おばあ様、リシャールさん、ありがとうございます。
 わたしは――


「わたしは今、本当に幸せです」



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