上 下
13 / 41

第7話 元婚約者の来訪 クラリス視点(3)

しおりを挟む
「お前も知っているだろう? あの女のせいで立場は悪くなってきてはいるものの、ウチは顔が広い。こんな状況下でも、容易に大ダメージを与えられるんだよ」

 お前がいつも『尊敬している』『愛している』と言っていた、父親や母親。大切な人が自分のせいで苦しむのは嫌だろう?
 そうなりたくなければ、貸せ。
 思った通り彼は、あの頃のように脅迫を行ってきた。

「商会は信頼第一で、そこを失えば崩壊はあっという間だ。瞬く間に全てが『無』と化してしまうが、それでもいいのか? よくないよな?」

 ここも、あの日と同じ。下卑た勝ち誇った顔で、醜い言葉を紡いでゆく。

「クラリス。最悪を招きたくなければ、従え。速やかに、父親に『1億出して』と伝えろ。いいな?」

 あの日、1年半前。わたしはこの表情、声に屈し、このあと悔し涙を零して頷いた。
 でも。
 ここからは、あの日と同じじゃない。

「お断りします。そちらの要求は呑めませんよ」

 わたしの瞳から悔し涙が零れることはなく、かつて縦に動かした首は横方向へと振った。

「ははっ、冗談だと思っているのか? この脅しは本物で――」
「ちゃんと、本気だと思っていますよ。……クレランズ様。今のわたし達は、あの頃のわたし達とは違うのですよ」

 頭の悪そうな笑い声を遮り、続ける。

「現会頭のお父様、現副会頭のお母様、次期会頭となるわたし。そして、スタッフの方々。一丸となって更に商会を成長させ、その結果確固たる地盤が生まれております。ですので外部からの攻撃では、ビクともしません。仰られていたような、『無』となる未来は起こり得ないのですよ」

 あの脅迫を、解消の真相を、わたしはお父様達に伏せていた。だけどきっと、想像以上に悔しかったのだと思う。ある夜うなされた際のうわごとで無意識的に発し、お父様とお母様は気付かれた。
 そしてお二人は自分達の力不足を嘆いてくれて、悲劇が二度と起きないように必死になってくれた。更にはスタッフの皆さんも続いてくれて、だから、わたしも頑張らないと立ち直れた。
 だから全員で前へと走り続けて、何ランクものステップアップが実現したのです。

「傍目には収益以外に変化がないように見えるでしょうが、何段階も進化をしているのですよ。ですのでそういった脅しは恐ろしくはありませんし、もう一つ。こうして跳ね返せる理由があります」

 事前にお約束をしていたから。わたしは「お願い致します」と声を出し、合図をお送りする。
 そうしたら、応接室の扉がゆっくりと開いて――

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:51,240pt お気に入り:53,716

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,526pt お気に入り:155

待ち遠しかった卒業パーティー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,819pt お気に入り:1,287

【完結】冷遇された翡翠の令嬢は二度と貴方と婚約致しません!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,427pt お気に入り:4,691

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:170,561pt お気に入り:7,833

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:5,581

とりあえずこのアホをぶちのめすのが私の役割だと思った

恋愛 / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:59

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:19,207pt お気に入り:3,528

処理中です...