俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ！ そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ？

第16話 最悪の再会と、再び返ってくる最悪な言葉 ジェラール視点（１）

「ひ、ひぇ!?　ぉぶぶ………………」
「じぇ、ジェラール……!?　だっ、誰のことです……!?　人違いですしっ、これは不法侵入ですよ!!　そのせいで父がこんなことになってしまって…………治安局員を呼びますよ!?」

　未曽有の衝撃によって失神した父上を一瞥し、他人のフリをしつつアドンを睨みつける。
　大丈夫、大丈夫だっ。どうやってここを嗅ぎつけたか知らないがっっつ！　俺達は髪色と髪型を大きく変えて眼鏡をかけ、肌だって焼いているんだ！　なにより、新たな戸籍を手に入れているんだっ！　こういっておけば誤魔化せるっ！

「俺は本気ですよっ！　構わないのですねっ⁉」
「ええ、構いませんよ。ですがそうすると困るのは、貴方がたの方ですよ？　そうなった場合はこちらも治安局員に事情を伝え、やがては転落死の真相が白日のもとにさらされてしまうのですからね」
「て、転落死……!?　なっ、何を仰られているのです――」
「しらを切ろうとしても、無駄ですよ。……役所の上級職員である二ネック・ザルスに大金を支払って新たな戸籍を手に入れ、髪色と髪型を大きく変えて眼鏡をかけ、肌を焼いていたため苦労しました。わたしは一年の歳月をかけて徹底的に各地を調べ上げ、ここの住人がジェラールでありケヴィンだと特定しているのですよ」
「……………………」

　コイツは、二ネックのことまで知っている……。
　ソコを、すべての起点を、把握されているのなら…………。言い逃れは、できない…………。

「新たな生活を手に入れるには、そうせざるを得なかったのでしょう。クレランズ家の貴重品を持ち出していたことが、仇となりました。その事実によって死の偽装に気付き、わたくしの総力を以て調査を行っていたのですよ」
「ぐ、ぐ……っ。お前の目的は、なんだ……？　また、選択を迫りに来たのかっ!?」
「いえ、選択を迫りはしませんよ。わたくしがこれから行うのは、そんな優しいものじゃありません。『命令』、ですよ」

　いつも無駄にニコニコとしている、アドン。どんな時でも笑っていたはずのヤツの目が、不気味に細くなった。

「……ご存じだとは思いますが――。わたくしは、娘のマリエットを溺愛しているのですよ」
「………………」
「そんな娘は偽りの訃報を聞き、一時的とはいえ酷く傷心しましてね。それが、絶対に許せないんだよ」

　目だけではなく、声まで厳しいものとなって……。まるで悪魔のような邪悪さを放ちだしたヤツは……。真っすぐと俺を指さし、こう言い放ったのだった……。

「マリエットを生涯愛し護り続けろ。無残に嬲り殺されたくなければな」