13 / 173
2話(7)
しおりを挟む
「ソーラさんにレイルさん。ここがアンタらの部屋だ!」
一階にある食堂でシチューとパンを頂き、大浴場で汗を流させてもらったあと。私達はサーゼルさん――例の男性に案内され、2階の一番奥にある部屋にやってきた。
ちなみにサーゼルさんが経営するのは、全30室もある結構な大きさの宿・『ターゲル亭(てい)』。外も中も清潔でお料理も美味しい、私達が最初に目をつけていた優良宿でした。
「他の部屋と同じように、ベッドと机、明かりを完備してる。明かりの使い方は、説明しなくてもいいよな?」
「はい。知っているので大丈夫ですよ」
部屋の壁に描かれている魔法陣に触れると、天井にある魔法陣が光って部屋全体が明るくなる。反対にその状態で壁の魔法陣に触れると、光がなくなって暗くなる。
これはジョブ『発明家(はつめいか)』と『魔術師』が共同で開発した技術で、これを応用した設備はいろいろな場所で大活躍中。大浴場にある『触れると水やお湯が出る魔法陣』や調理場にある『触れると火が出る魔法陣』など、今ではなくてはならないものなんだよね。
「なら、紹介は以上で終わりだ。ゆっくり寛いでくれ――おっとそうそう。言い忘れていた」
部屋を去ろうとしていたサーゼルさんが、ポンと手のひらを打った。
「ウチで飯を食う場合は、朝食は午前6時~9時。昼食は午前11時30分~午後2時30分。夕食は午後6時30分~午後9時30分。こういう時間割りになってるんで、注意しておいてくれ。それとメニューは朝昼晩ともに700Eの『日替わり』のみで、献立は食堂前に張り出してるから確認してくれ」
「「はい」」
「そんで大浴場は24間開放で、利用料はタダ。最後に、宿泊料金なんだが……。財政の関係で、終日無料は無理なんだ。明日からは部屋代と食事代を払ってもらうことになる」
「それは、当然です。お気にならないでください」
食事700Eと1泊1人2000Eは、この辺りだと破格の設定。ギリギリ頑張ってくれているのだから当たり前で、私達は場所を設けてもらっただけで大満足なんだよね。
「だがその分ご飯とおかずの大盛などでサービスするから、期待しててくれ。それじゃあオレは、これで失礼する。何かあったらオレか妻が『管理人室』にいるから、遠慮なく声をかけてくれよ」
「「分かりました。どうもありがとうございます」」
私達は揃って頭を下げ、パタン、ボスッ。木の扉を閉めると私はベッドに飛び込み、お行儀悪く大の字になった。
「はぁー、やっと寝っ転がれたぁ。こんなに歩き回ったのは久しぶりだわ」
「一か月間軟禁状態だった上に、ミファは以前から行動に制限が多かった。疲れるのは至当だな」
偉大なるノルス勇者様のおかげで部屋暮らしだったし、かつては表向きは『第四王女様だから』、実態は『第四王女如きに警備を増やすのは勿体ない』という理由で、私はお城から遠くに出られなかった。
そのおかげでこうして、顔を出していても全然バレないんだけど――。そんな理由で遠出できないのは納得いかなくって、ずっと不満だったんだよね。
「でもこの疲れは、気持ちの良い疲れよ。無事拠点も見つけられたし…………ふぁ~…………。ダメだわ。ベッドの誘惑に負けて、このまま眠っちゃいそう」
前代未聞の心身の疲れプラス久しぶりのまともな寝具のコンボは、強い。瞼がどんどん降りてきて、睡魔が眠りの世界へ連れて行こうとする。
「……もうちょっと起きて…………今日を振り返ったり、明日の相談をしたりしようと思ってたのに……。ふぁぁ~…………。ごめん、もう無理……」
「そのようだな。俺は机でいいから、ミファはそこでゆっくり休むといい」
「……ばーか、そしたら罪悪感で眠れなくなるでしょ。もう私は王女でティルは従者じゃないんだから、今まで以上に平等にいくわよ」
私は睡魔に抵抗して起き上がり、ティルをベッドに引っ張り込む。
私達は物心ついた時からずっと一緒で、血のつながらない兄妹のような関係。こんな風に一つのベッドで眠っても、なんともないのよね。
「ティルがベッドから出ようとしたら、私は絶対に床で寝る。さてどうしますか?」
「分かった分かった。俺も、ベッドで眠ればいいんだろ?」
「夜中にこっそり抜け出して私に譲るのも、ダメだからね? それをやったら、次の日から床で眠るからね?」
「ミファの性格は重々把握済みで、そんな真似はしない。朝まで俺もベッドにいるから、安心して眠ってくれ」
確かにこの人は、私を知り尽くしている。ここまで念を押しておいたら、大丈夫ね。
「ふぁぁぁ……。ん、じゃあ眠るわ……。おやすみ、ティル」
「ああ。お休み、ミファ」
私は真横に笑いかけて、それを済ますともう限界。独りでに両目が閉じちゃって、あっという間に眠りの世界に落ちたのでした――。
一階にある食堂でシチューとパンを頂き、大浴場で汗を流させてもらったあと。私達はサーゼルさん――例の男性に案内され、2階の一番奥にある部屋にやってきた。
ちなみにサーゼルさんが経営するのは、全30室もある結構な大きさの宿・『ターゲル亭(てい)』。外も中も清潔でお料理も美味しい、私達が最初に目をつけていた優良宿でした。
「他の部屋と同じように、ベッドと机、明かりを完備してる。明かりの使い方は、説明しなくてもいいよな?」
「はい。知っているので大丈夫ですよ」
部屋の壁に描かれている魔法陣に触れると、天井にある魔法陣が光って部屋全体が明るくなる。反対にその状態で壁の魔法陣に触れると、光がなくなって暗くなる。
これはジョブ『発明家(はつめいか)』と『魔術師』が共同で開発した技術で、これを応用した設備はいろいろな場所で大活躍中。大浴場にある『触れると水やお湯が出る魔法陣』や調理場にある『触れると火が出る魔法陣』など、今ではなくてはならないものなんだよね。
「なら、紹介は以上で終わりだ。ゆっくり寛いでくれ――おっとそうそう。言い忘れていた」
部屋を去ろうとしていたサーゼルさんが、ポンと手のひらを打った。
「ウチで飯を食う場合は、朝食は午前6時~9時。昼食は午前11時30分~午後2時30分。夕食は午後6時30分~午後9時30分。こういう時間割りになってるんで、注意しておいてくれ。それとメニューは朝昼晩ともに700Eの『日替わり』のみで、献立は食堂前に張り出してるから確認してくれ」
「「はい」」
「そんで大浴場は24間開放で、利用料はタダ。最後に、宿泊料金なんだが……。財政の関係で、終日無料は無理なんだ。明日からは部屋代と食事代を払ってもらうことになる」
「それは、当然です。お気にならないでください」
食事700Eと1泊1人2000Eは、この辺りだと破格の設定。ギリギリ頑張ってくれているのだから当たり前で、私達は場所を設けてもらっただけで大満足なんだよね。
「だがその分ご飯とおかずの大盛などでサービスするから、期待しててくれ。それじゃあオレは、これで失礼する。何かあったらオレか妻が『管理人室』にいるから、遠慮なく声をかけてくれよ」
「「分かりました。どうもありがとうございます」」
私達は揃って頭を下げ、パタン、ボスッ。木の扉を閉めると私はベッドに飛び込み、お行儀悪く大の字になった。
「はぁー、やっと寝っ転がれたぁ。こんなに歩き回ったのは久しぶりだわ」
「一か月間軟禁状態だった上に、ミファは以前から行動に制限が多かった。疲れるのは至当だな」
偉大なるノルス勇者様のおかげで部屋暮らしだったし、かつては表向きは『第四王女様だから』、実態は『第四王女如きに警備を増やすのは勿体ない』という理由で、私はお城から遠くに出られなかった。
そのおかげでこうして、顔を出していても全然バレないんだけど――。そんな理由で遠出できないのは納得いかなくって、ずっと不満だったんだよね。
「でもこの疲れは、気持ちの良い疲れよ。無事拠点も見つけられたし…………ふぁ~…………。ダメだわ。ベッドの誘惑に負けて、このまま眠っちゃいそう」
前代未聞の心身の疲れプラス久しぶりのまともな寝具のコンボは、強い。瞼がどんどん降りてきて、睡魔が眠りの世界へ連れて行こうとする。
「……もうちょっと起きて…………今日を振り返ったり、明日の相談をしたりしようと思ってたのに……。ふぁぁ~…………。ごめん、もう無理……」
「そのようだな。俺は机でいいから、ミファはそこでゆっくり休むといい」
「……ばーか、そしたら罪悪感で眠れなくなるでしょ。もう私は王女でティルは従者じゃないんだから、今まで以上に平等にいくわよ」
私は睡魔に抵抗して起き上がり、ティルをベッドに引っ張り込む。
私達は物心ついた時からずっと一緒で、血のつながらない兄妹のような関係。こんな風に一つのベッドで眠っても、なんともないのよね。
「ティルがベッドから出ようとしたら、私は絶対に床で寝る。さてどうしますか?」
「分かった分かった。俺も、ベッドで眠ればいいんだろ?」
「夜中にこっそり抜け出して私に譲るのも、ダメだからね? それをやったら、次の日から床で眠るからね?」
「ミファの性格は重々把握済みで、そんな真似はしない。朝まで俺もベッドにいるから、安心して眠ってくれ」
確かにこの人は、私を知り尽くしている。ここまで念を押しておいたら、大丈夫ね。
「ふぁぁぁ……。ん、じゃあ眠るわ……。おやすみ、ティル」
「ああ。お休み、ミファ」
私は真横に笑いかけて、それを済ますともう限界。独りでに両目が閉じちゃって、あっという間に眠りの世界に落ちたのでした――。
10
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる