勇者になった幼馴染に婚約破棄された上に追放されたので、英雄になってざまぁしようと思います

柚木ゆず

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2話(6)

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「ねえ、ティル。あそこにある時計塔を見て。午後の9時になってるわよ」
「ああ、そうだな。九時になっているな」
「あれから、約3時間かぁ。……散々走り回っても、いい宿は見つからなかったわねぇ……」

 私達は街の中心にある広場にいて、私は大きな大きなため息をついた。
 この街は、『中央(ちゅうおう)』に近く――王族が暮らす地域に近く人口も多いため、この辺りでは最も栄えた場所。そのため宿の数も多いんだけど、連泊している冒険者が多かった。どの店を訪ねても数日前から満室で、空いているのは評判が最悪なトコばかり。


『働いている僕が言うのもなんだけど、ここは色んな意味で危険だ。女の子が泊まるのはやめておいた方がいいよ』
『美少年の子が泊まるのは、ぅーん。おすすめできないなぁ』


 親切な従業員さんがこう忠告してくれたのだから、流石に宿泊はできないのよね。
 ……ところで……。女の子はともかくとして、美少年が危ないのはどういうことなのかしら……? ティルに尋ねても有耶無耶にされて、何も分からないのよねぇ。

「ミファ? げんなりしたあとに怪訝な顔をして、どうしたんだ?」
「これは一旦置いておくで、なんでもないわ。それよりどうしましょうか?」

 今一番大事なのは、泊まる場所を確保すること。
 24時間365日開いている冒険者ギルドは、施設内での寝泊まりは禁止になっている。この街にある優良店は、すべて埋まっている。どうしたらいいんだろ……?

「部屋に空きができるまで野営をする。部屋に空きができるまで、評判最悪の宿で我慢をする。そのどちらかで一晩過ごし、違う街に行って宿を探す。現実的なのは、この3パターンだな」
「そう、よね……。ティルは、どれがいいと思う?」
「3つ目の案で、野営して翌日移動、だな。先のことを考えると、これが適切だ」

 ティルは私と違って、様々な面でかなり賢い。そんな人が言うんだから、そうしておいた方がよさそうね。

「わかった、じゃあそうしましょ。野営って何か必要?」
「いくら街の傍であっても、火がないと危険だ。まずは森で手に入れた魔石を売りに行って、必要なものを揃えよう」
「お金がないと、何もできないものね。そうと決まれば、ささっと動いて――」
「ボロボロの服を着た、金髪の美少女と黒髪の美少年。もしかしてアンタら、ユージを倒したヤツらか?」

 動き出そうとしていたら、長い髭を蓄えた中年男性に話しかけられた。
 ユージ…………。そういえば自営団の人が、倒したあの男のことをそう呼んでいた。だったらこの人が言っているのは、私達のことだ。

「はい、そうだと思います。それが、どうしたんですか?」
「オレの息子が先日アイツらに怪我をさせられて、どうにかしたいと思ってたんだ。だけどそんな力はないし暴力の証拠もなくって、ずっとモヤモヤしてたんだよ。ありがとうなっ!」

 男性はにこやかに歩み寄ってきて、私とティルの手を握って上下にブンブン振る。
 思い返せばあの2人は、『この前拒んだ奴らはなぜか、全治2週間の怪我を負ったんだよなぁ』と口にしていた。その『奴ら』の一人が、この人の子供だったんだ。

「私は後ろで見ていただけで、やっつけたのはティル――彼なんです。私にお礼は要りませんよ」
「そういう俺も、俺達に降りかかった火の粉を払っただけです。自分に対しても感謝は不要ですし、物も不要ですよ」

 男性が懐から、小さな麻袋――財布を取り出そうとしているのを見て、ティルが男性の手の甲にそっと触れる。
 私達は私達に売られたケンカを買っただけで、この結果はソレのオマケ。幼馴染が言うように、そんなものはもらえない。

「待ってくれ。オレはどうしても、感謝を形にしたいんだよ。大した額は渡せねーが、受け取ってはくれないか?」
「今し方申し上げました通り、俺達はお気持ちだけ受け取っておきます。そのお金は息子殿に使ってあげてください」
「いい装備を買って、栄養のあるものを食べて、一生懸命訓練すれば、二度とそんな目には遭わないはずです。息子さんのパワーアップに使ってあげてくださいっ」

 騎士団員の人達はみんな、そうやって強くなっていった。何度も怪我をするのは自分も家族も辛いから、ぜひぜひそうしてあげて欲しい。

「これが、私達が一番満足する方法なんです。受け入れてもらえませんか?」
「…………あんたら、滅茶苦茶できた人間だな……! 恩人がそこまで言ってくれるのなら、そうさせてもらうぜ……っ」

 男性は鼻をすすり、出しかけていた麻袋を引っ込めてくれた。
 よっし。それじゃあお別れをして、今度こそお店に急ごう。

「私達は用事があるので、この辺りで失礼しますね。ティル、魔石はどこで売れるんだったっけ?」
「『換金所(かんきんじょ)』か『換金所が併設されている武器屋』、だな。この規模の街だと後者が存在しているから、そちらに行けば効率がいい」
「剣と杖がないと野営は危険だし、お金がないと夕ご飯を食べられないもんね。ええっと、武器屋の場所は――」
「なあアンタら。もしかして、泊まる宿がないのか?」

 入り口にあった案内板を思い出していたら、その場を去ろうとしてた男性が振り返った。

「野営って単語が聞こえた。そうなんだよな?」
「ええ、実はそうなんですよ。それがどうかしましたか?」
「だったら丁度いい! ウチの宿を使ってくれ!」

 え?
 ウチの、宿?

「厳密に言うと満室で、空いてるのは物置として使ってる部屋なんだけどな。綺麗にすれば問題なく使える。広さは一人用でベッドも一つしか用意できないが、行く当てがないなら来てくれ」
「いっ、いいんですかっ!? 用意してもらえるんですかっ!?」
「勿論だともっ。今ならまだ夕飯が間に合うから、さあオレについてきてくれ!」

 このご提案は最高のご提案なので、私達は男性のあとをついていくことにした。
 まさかまさかの、話しかけてきてくれた人は宿屋の主。私達は追放早々、ラッキーと遭遇しましたっ。
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