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2話(5)
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「今のは、魔術。魔術でアイツらを焼いたのさ」
「う、うん。魔術師のティルが使ったんだから、あれは魔術だよね。……どうして魔術を使えてるの?」
「俺はジョブの弱点を克服するため、実は色々と保険を用意している。杖を失っても使える術があったから、使えたのさ」
ティルはいたずらっぽく小さく笑い、続ける。
「魔術師にとって杖は媒体で、体内の魔力と杖をリンクさせる事で魔術は発動する。つまりリンクさせる媒体があれば、杖でなくても使用可能になるというわけだ」
「あー、そっか。そうだね。そうなる」
「だから俺はここに来る途中で壁に付着していた埃を固め、杖に代わる媒体とした。媒体が不安定なため大きな魔術は扱えないものの、ご覧の通り急所を狙えば破壊力はそれなりのものになるのさ」
ヤツらはもがき苦しんでいて、すっかり戦えなくなっている。これはそれなりではなく、強い力を持つ武器だ。
「ティル、すごいよ……! 杖なしでも――ってあれ? 杖なしで戦えるなら、さっきの森でも戦えたんじゃないの?」
「ああそうだな、あの程度の魔物であれば相手にできた。だがあそこで伝えてしまうとミファが認識してしまい、今後――このような場面で、相手を出し抜けない可能性があった。そのため敢えて、伏せていたんだ」
あ~、そっかそっか。今回だって私が全然予測できてないから、相手が完璧に引っかかったんだもんね。
この内緒は、しょうがない。
「あの時何か言いかけて止めてたのは、こういう時を想定してたのね。流石だわ」
「今後のための、判断だ。許してくれ」
「ううん、気にしないで。そんなことより、ティル。追放が決まってから一か月しかなかったのに、よくそんな技術を習得できたわね」
こういう応用技術は他の魔術師は持っていなくて、そうそう身につくものじゃない。一体どれだけ練習してたんだろ。
「ああいや、これを習得したのは今月じゃない。こいつが可能になったのは、四年前だ」
「4年前っ!? そんな前からなのっ!? どうして黙ってたのっ!?」
予想外のビックリ発言が出て、私は立て続けに驚いてしまう。
4年前は当たり前の話、お城にいる時。こんな能力があるなら大注目で待遇もかなり良くなってたのに、なんで秘密にしてたの……!?
「普通の魔術師に出来ない事が出来てしまうと、従者としての序列が上がる。上がってしまうと、高い身分の者を担当しないといけなくなる――ミファの従者で、居られなくなってしまうからな。俺は故意に隠していたんだ」
「ティル……っ。ティル……っっ!」
「それに全ての保険は、ミファを護るために用意したもの。どんなに金や地位を積まれても、他の人間に使うつもりはない」
そのあとティルは「『祝福』のおかげで今は俺より強くなり、ほぼ意味はなくなったけどな」と付け足し、肩をすくめてみせた。
……そう、なんだ……。この人はずっと、そんなことを思って、考えていてくれてたんだ……。
「ティル、ありがとう。それと、ごめん。私は全然、ティルの優しさに気付けなかった」
「そちらが気付かないようにしていたし、そもそも見返りを求めてはいない。俺はミファが元気で居てくれたら、それでいいんだよ」
ティルの顔と言葉に、少しも嘘はなかった。この幼馴染は、損得勘定抜きで私を想ってくれていて……。今までかなりお世話になってるつもりだったし、大事に思ってくれてるんだなって感じていたけど……。
実際は、もっともっとだった。
想像の何倍も想ってくれていて、私は本当に幸せ者だ。
「こうして前を向いて生きているミファを見ているだけで、満足している。それに――人が、来たな。ここまでにしておこう」
『自営団(じえいだん)』の刺繍があるタスキをかけた男性が、4人やって来た。
自営団っていうのは街の治安を守る組織で、所属しているのは善良な人達。悪人じゃないけどプライベートな話題を聞かれたら困るから、このお話はお仕舞いにする。
「ギルドのスタップから通報があり、駆け付けました。が、不要だったようですな」
「ええ。彼らは自分が無力化しました。顔面に火傷がありますので、連行する前に『治療所(ちりょうじょ)』に連れて行ってやってください」
治療所とは、『プリースト』が経営している病院。傷の治療は勿論のこと、魔物から受けた毒や麻痺なんかも治せる、ある意味冒険者が一番頼りにしてる施設なんだよね。
「それが、いいですな。この者達の処罰は我々とギルドが厳粛に行いますので、お二人ともご安心ください」
「ありがとうございます。助かります」
「私からも、お礼を言わせてください。どうもありがとうございます」
私達は連行とその後の処理をしてくれる皆さんにお辞儀をして、本当は何かお手伝いをしたかったのだけど、宿屋探しがあるためダッシュ。大急ぎかつ少々慌てて、良い宿探しを始めたのでした。
「う、うん。魔術師のティルが使ったんだから、あれは魔術だよね。……どうして魔術を使えてるの?」
「俺はジョブの弱点を克服するため、実は色々と保険を用意している。杖を失っても使える術があったから、使えたのさ」
ティルはいたずらっぽく小さく笑い、続ける。
「魔術師にとって杖は媒体で、体内の魔力と杖をリンクさせる事で魔術は発動する。つまりリンクさせる媒体があれば、杖でなくても使用可能になるというわけだ」
「あー、そっか。そうだね。そうなる」
「だから俺はここに来る途中で壁に付着していた埃を固め、杖に代わる媒体とした。媒体が不安定なため大きな魔術は扱えないものの、ご覧の通り急所を狙えば破壊力はそれなりのものになるのさ」
ヤツらはもがき苦しんでいて、すっかり戦えなくなっている。これはそれなりではなく、強い力を持つ武器だ。
「ティル、すごいよ……! 杖なしでも――ってあれ? 杖なしで戦えるなら、さっきの森でも戦えたんじゃないの?」
「ああそうだな、あの程度の魔物であれば相手にできた。だがあそこで伝えてしまうとミファが認識してしまい、今後――このような場面で、相手を出し抜けない可能性があった。そのため敢えて、伏せていたんだ」
あ~、そっかそっか。今回だって私が全然予測できてないから、相手が完璧に引っかかったんだもんね。
この内緒は、しょうがない。
「あの時何か言いかけて止めてたのは、こういう時を想定してたのね。流石だわ」
「今後のための、判断だ。許してくれ」
「ううん、気にしないで。そんなことより、ティル。追放が決まってから一か月しかなかったのに、よくそんな技術を習得できたわね」
こういう応用技術は他の魔術師は持っていなくて、そうそう身につくものじゃない。一体どれだけ練習してたんだろ。
「ああいや、これを習得したのは今月じゃない。こいつが可能になったのは、四年前だ」
「4年前っ!? そんな前からなのっ!? どうして黙ってたのっ!?」
予想外のビックリ発言が出て、私は立て続けに驚いてしまう。
4年前は当たり前の話、お城にいる時。こんな能力があるなら大注目で待遇もかなり良くなってたのに、なんで秘密にしてたの……!?
「普通の魔術師に出来ない事が出来てしまうと、従者としての序列が上がる。上がってしまうと、高い身分の者を担当しないといけなくなる――ミファの従者で、居られなくなってしまうからな。俺は故意に隠していたんだ」
「ティル……っ。ティル……っっ!」
「それに全ての保険は、ミファを護るために用意したもの。どんなに金や地位を積まれても、他の人間に使うつもりはない」
そのあとティルは「『祝福』のおかげで今は俺より強くなり、ほぼ意味はなくなったけどな」と付け足し、肩をすくめてみせた。
……そう、なんだ……。この人はずっと、そんなことを思って、考えていてくれてたんだ……。
「ティル、ありがとう。それと、ごめん。私は全然、ティルの優しさに気付けなかった」
「そちらが気付かないようにしていたし、そもそも見返りを求めてはいない。俺はミファが元気で居てくれたら、それでいいんだよ」
ティルの顔と言葉に、少しも嘘はなかった。この幼馴染は、損得勘定抜きで私を想ってくれていて……。今までかなりお世話になってるつもりだったし、大事に思ってくれてるんだなって感じていたけど……。
実際は、もっともっとだった。
想像の何倍も想ってくれていて、私は本当に幸せ者だ。
「こうして前を向いて生きているミファを見ているだけで、満足している。それに――人が、来たな。ここまでにしておこう」
『自営団(じえいだん)』の刺繍があるタスキをかけた男性が、4人やって来た。
自営団っていうのは街の治安を守る組織で、所属しているのは善良な人達。悪人じゃないけどプライベートな話題を聞かれたら困るから、このお話はお仕舞いにする。
「ギルドのスタップから通報があり、駆け付けました。が、不要だったようですな」
「ええ。彼らは自分が無力化しました。顔面に火傷がありますので、連行する前に『治療所(ちりょうじょ)』に連れて行ってやってください」
治療所とは、『プリースト』が経営している病院。傷の治療は勿論のこと、魔物から受けた毒や麻痺なんかも治せる、ある意味冒険者が一番頼りにしてる施設なんだよね。
「それが、いいですな。この者達の処罰は我々とギルドが厳粛に行いますので、お二人ともご安心ください」
「ありがとうございます。助かります」
「私からも、お礼を言わせてください。どうもありがとうございます」
私達は連行とその後の処理をしてくれる皆さんにお辞儀をして、本当は何かお手伝いをしたかったのだけど、宿屋探しがあるためダッシュ。大急ぎかつ少々慌てて、良い宿探しを始めたのでした。
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