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3・5話
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海苔と海老の漁場となっている、レミス川。そこの中流では特に漁が盛んに行われており、今日も多くの漁師で賑わっていた。
「すまんが新しい網を持ってきてくれ! 早く頼む!」
「こっちのは、満杯になった! それが終わったらそっちに運んでくれっ!」
「あいよっ。ちょっと待ってな!」
水産系に特化したジョブ・『漁師(りょうし)』が中心となって作業を行い、負傷や加齢によって一線を引いた戦士達が運搬などの力仕事を行う。彼らは歳も職業も異なる者達だが、全員が互いを必要とし尊重しており、職場はいつも良い活気で満ち溢れていた。
――その時、までは――。
「ん? おい、東の空から何か飛んでくるぞ。あの黒いのはなんだ?」
「まったく、忙しい時になんだよ。鳥か何か――じゃ、ないな。翼と手足が見える」
「お、おいっ、あれって魔物じゃないのかっ!? 人型のやつもいるって聞いたことがあるぞっ!」
「…………ああ、俺は戦士だからよく知っている……。アイツは、人型の魔物。現役かつ強力な戦士が10人がかりでやっと倒せる強さの、魔物だ……」
そう呟いた元戦士の脳裏に、蘇る。10対1にもかかわらず全員が重軽傷を負いながらかろうじて倒した、当時の記憶が。
「ま、待てよっ! それじゃ……」
「ここにいるのは現役を退いた戦士が8人で、満足な武器もない。やり合えば、十中八九全滅だ」
「ぜ、全滅……っ。にっ、逃げろ! 全員今すぐ逃げるんだっっ!!」
その言葉を合図にして、2人を除く人間が一斉に逃げ出す。
例外となった2人の人間は、漁師のリーダーと戦士のリーダー。彼らは若者たちを生かすため、自分達で時間稼ぎをしようとしていた。
「息子に、高台に行って危険度S級~SS級の緊急クエストの知らせを上げるように言っておいた。備えあれば何とやらで、用心しておくものだな」
「まったくだ。俺も万が一に備え、相棒を持ってきておいてよかったよ」
戦士の男は使い込んだ得物を鞘から引き抜き、やがて魔物が2人の前に降り立った。
「オレ様を目視してすぐ逃げる、いい判断だ。戦力差を正しく理解している」
漆黒の翼を生やした悪魔のような異形は、まず嘲笑。獲物に対し、嘲りを込めた称賛を送った。
「だが、残念ながらそれは叶わない。なぜならお前達はあっという間に殺害され、あのゴミ共も蹂躙されるのだからな」
「…………ふん、調子に乗るなよ。人間の強さを、もう一度味わわせてやる」
元戦士は圧倒的な迫力に押されていたが、堪えて嘲笑を返す。
今彼を動かしているのは、『守る』という気持ち。自分がそうされたように若者の未来を切り開くため、男は剣を構えた。
「窮鼠猫を噛むってのを、その身体に教えてやる! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「息子たちを殺させてたまるかってんだっ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
2人は雄々しく吠えて飛び掛かり、同時に剣を振り下ろし――
「身の程を知れ。雑魚が」
――魔物が発生させた衝撃波によって吹き飛ばされ、呆気なく地面に転がった。
「く……。だがっ、まだ戦えるぞ!」
「俺達は、まだ五体満足だ……! 徹底的にやるぞ、クソ魔物――」
「いつまでも遊びに付き合う程、オレ様は暇じゃない。まとめて消してやる」
魔物の頭上にどす黒い球体が現れ、やがてソレは2人へと飛ぶ。
直径5メートル近くもある、禍々しい『球』。その物体は、ふらふらと立ち上がっていた2人を――
「アンタの好きにはさせないわよっ!」
――2人を飲み込む寸前。後方から飛んできた短剣と衝突し、消滅させられたのだった。
「すまんが新しい網を持ってきてくれ! 早く頼む!」
「こっちのは、満杯になった! それが終わったらそっちに運んでくれっ!」
「あいよっ。ちょっと待ってな!」
水産系に特化したジョブ・『漁師(りょうし)』が中心となって作業を行い、負傷や加齢によって一線を引いた戦士達が運搬などの力仕事を行う。彼らは歳も職業も異なる者達だが、全員が互いを必要とし尊重しており、職場はいつも良い活気で満ち溢れていた。
――その時、までは――。
「ん? おい、東の空から何か飛んでくるぞ。あの黒いのはなんだ?」
「まったく、忙しい時になんだよ。鳥か何か――じゃ、ないな。翼と手足が見える」
「お、おいっ、あれって魔物じゃないのかっ!? 人型のやつもいるって聞いたことがあるぞっ!」
「…………ああ、俺は戦士だからよく知っている……。アイツは、人型の魔物。現役かつ強力な戦士が10人がかりでやっと倒せる強さの、魔物だ……」
そう呟いた元戦士の脳裏に、蘇る。10対1にもかかわらず全員が重軽傷を負いながらかろうじて倒した、当時の記憶が。
「ま、待てよっ! それじゃ……」
「ここにいるのは現役を退いた戦士が8人で、満足な武器もない。やり合えば、十中八九全滅だ」
「ぜ、全滅……っ。にっ、逃げろ! 全員今すぐ逃げるんだっっ!!」
その言葉を合図にして、2人を除く人間が一斉に逃げ出す。
例外となった2人の人間は、漁師のリーダーと戦士のリーダー。彼らは若者たちを生かすため、自分達で時間稼ぎをしようとしていた。
「息子に、高台に行って危険度S級~SS級の緊急クエストの知らせを上げるように言っておいた。備えあれば何とやらで、用心しておくものだな」
「まったくだ。俺も万が一に備え、相棒を持ってきておいてよかったよ」
戦士の男は使い込んだ得物を鞘から引き抜き、やがて魔物が2人の前に降り立った。
「オレ様を目視してすぐ逃げる、いい判断だ。戦力差を正しく理解している」
漆黒の翼を生やした悪魔のような異形は、まず嘲笑。獲物に対し、嘲りを込めた称賛を送った。
「だが、残念ながらそれは叶わない。なぜならお前達はあっという間に殺害され、あのゴミ共も蹂躙されるのだからな」
「…………ふん、調子に乗るなよ。人間の強さを、もう一度味わわせてやる」
元戦士は圧倒的な迫力に押されていたが、堪えて嘲笑を返す。
今彼を動かしているのは、『守る』という気持ち。自分がそうされたように若者の未来を切り開くため、男は剣を構えた。
「窮鼠猫を噛むってのを、その身体に教えてやる! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「息子たちを殺させてたまるかってんだっ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
2人は雄々しく吠えて飛び掛かり、同時に剣を振り下ろし――
「身の程を知れ。雑魚が」
――魔物が発生させた衝撃波によって吹き飛ばされ、呆気なく地面に転がった。
「く……。だがっ、まだ戦えるぞ!」
「俺達は、まだ五体満足だ……! 徹底的にやるぞ、クソ魔物――」
「いつまでも遊びに付き合う程、オレ様は暇じゃない。まとめて消してやる」
魔物の頭上にどす黒い球体が現れ、やがてソレは2人へと飛ぶ。
直径5メートル近くもある、禍々しい『球』。その物体は、ふらふらと立ち上がっていた2人を――
「アンタの好きにはさせないわよっ!」
――2人を飲み込む寸前。後方から飛んできた短剣と衝突し、消滅させられたのだった。
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