勇者になった幼馴染に婚約破棄された上に追放されたので、英雄になってざまぁしようと思います

柚木ゆず

文字の大きさ
23 / 173

3・5話

しおりを挟む
 海苔と海老の漁場となっている、レミス川。そこの中流では特に漁が盛んに行われており、今日も多くの漁師で賑わっていた。

「すまんが新しい網を持ってきてくれ! 早く頼む!」
「こっちのは、満杯になった! それが終わったらそっちに運んでくれっ!」
「あいよっ。ちょっと待ってな!」

 水産系に特化したジョブ・『漁師(りょうし)』が中心となって作業を行い、負傷や加齢によって一線を引いた戦士達が運搬などの力仕事を行う。彼らは歳も職業も異なる者達だが、全員が互いを必要とし尊重しており、職場はいつも良い活気で満ち溢れていた。


 ――その時、までは――。


「ん? おい、東の空から何か飛んでくるぞ。あの黒いのはなんだ?」
「まったく、忙しい時になんだよ。鳥か何か――じゃ、ないな。翼と手足が見える」
「お、おいっ、あれって魔物じゃないのかっ!? 人型のやつもいるって聞いたことがあるぞっ!」
「…………ああ、俺は戦士だからよく知っている……。アイツは、人型の魔物。現役かつ強力な戦士が10人がかりでやっと倒せる強さの、魔物だ……」

 そう呟いた元戦士の脳裏に、蘇る。10対1にもかかわらず全員が重軽傷を負いながらかろうじて倒した、当時の記憶が。

「ま、待てよっ! それじゃ……」
「ここにいるのは現役を退いた戦士が8人で、満足な武器もない。やり合えば、十中八九全滅だ」
「ぜ、全滅……っ。にっ、逃げろ! 全員今すぐ逃げるんだっっ!!」

 その言葉を合図にして、2人を除く人間が一斉に逃げ出す。
 例外となった2人の人間は、漁師のリーダーと戦士のリーダー。彼らは若者たちを生かすため、自分達で時間稼ぎをしようとしていた。

「息子に、高台に行って危険度S級~SS級の緊急クエストの知らせを上げるように言っておいた。備えあれば何とやらで、用心しておくものだな」
「まったくだ。俺も万が一に備え、相棒を持ってきておいてよかったよ」

 戦士の男は使い込んだ得物を鞘から引き抜き、やがて魔物が2人の前に降り立った。

「オレ様を目視してすぐ逃げる、いい判断だ。戦力差を正しく理解している」

 漆黒の翼を生やした悪魔のような異形は、まず嘲笑。獲物に対し、嘲りを込めた称賛を送った。

「だが、残念ながらそれは叶わない。なぜならお前達はあっという間に殺害され、あのゴミ共も蹂躙されるのだからな」
「…………ふん、調子に乗るなよ。人間の強さを、もう一度味わわせてやる」

 元戦士は圧倒的な迫力に押されていたが、堪えて嘲笑を返す。
 今彼を動かしているのは、『守る』という気持ち。自分がそうされたように若者の未来を切り開くため、男は剣を構えた。

「窮鼠猫を噛むってのを、その身体に教えてやる! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「息子たちを殺させてたまるかってんだっ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 2人は雄々しく吠えて飛び掛かり、同時に剣を振り下ろし――

「身の程を知れ。雑魚が」

 ――魔物が発生させた衝撃波によって吹き飛ばされ、呆気なく地面に転がった。

「く……。だがっ、まだ戦えるぞ!」
「俺達は、まだ五体満足だ……! 徹底的にやるぞ、クソ魔物――」
「いつまでも遊びに付き合う程、オレ様は暇じゃない。まとめて消してやる」

 魔物の頭上にどす黒い球体が現れ、やがてソレは2人へと飛ぶ。
 直径5メートル近くもある、禍々しい『球』。その物体は、ふらふらと立ち上がっていた2人を――

「アンタの好きにはさせないわよっ!」

 ――2人を飲み込む寸前。後方から飛んできた短剣と衝突し、消滅させられたのだった。
しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...