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第12話 翌日~予期せぬインタビューと、ヴィクターの思い出~ ステラ視点(2)

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「その時流れ込んできた音は、優しくて温かく……。おもわず僕は、会場に――その日は開放されていたので、中に入って最後まで聴きました。それによってそんな音がたくさん両耳を通じて体内へと、心へと流れ込んできて…………心を覆っていた闇、絶望を包み込み、涙という形で外へと追い出してくれて……。そうしてそのような状態になったことで、僕は大事な言葉を思い出すのですよ」

『どうか泣かないでください。私は空の上から見守っています』
『ですのでまた、お会いできますよ』
『これは一時的なお別れです』
『その時まで、お元気で』

 乳母だったミンテール様は、最後の力を振り絞ってそう仰られたそうです。

「大切な人が僕の幸せを望み、そうしている今も見守ってくれていること。大事な大事なものを、思い出したのです」
「…………そんなことが……。おありだったのですね……」
「こうして僕は自身の間違いに気付き、留まります。そして、そうしてくれた音に――その音を生んでくださったステラ様に強く感謝し、どうにか恩人の役に立てないかと考えました。そんな時真っ先に浮かんだのが僕が持つ絶対音感で、同時に『調律師は年々減ってきている』という現実を知りました。そこでとある方に師事をして腕を磨き、知識と技術を身につけました」

 その方は高名であり、自分が認めた人しか弟子にしないことで有名な調律師です。ですのでヴィクター様も例外ではなく、相当な苦労をされてやっと弟子入りされたのだと分かります。

「僕は諸事情によって、一日中調律師の勉強をすることができず……。毎年1名破門されてしまうので、修行中は休む暇がありませんでした。けれど目標であり夢がありますので、6年間走り続けることができました」
「恩人――ステラ様の存在。そちらが、原動力となったのですね……!」
「はい。そうして無事一人前の調律師となり、幸運にもすぐ専属調律師の任に就くことが――支えることができました。ですので毎日が本当に幸せで、同じく、ステラ様の音作りに貢献できていることが幸せでたまりません」

 ヴィクター様は眩しいくらいの明るい微笑みを浮かべられ、自然と私も同様の表情になります。
 ピアノ奏者にとってそれは、とても嬉しいことです。それに…………特別な方の人生を変えられた。それが幸せなのです。

「そのためステラ様が望んでくださる限り、僕は全身全霊を注ぐ所存です」
「もちろん私は、いつまでも望ませていただきます。ヴィクター様以外の方は、考えられませんので」
「ステラ様のお顔を拝見していると、そちらがよく分かります。ではそんなお二人に、続いての質問をさせていただいて――」

 そうして私達はその後も20分程度出される質問にお応えし、初めて行う2人でのインタビューは幕を閉じました。ですが休む暇はなく、すぐに演奏の準備が始まります。


 もちろん今日の演奏も、最高の出来。


 ヴィクター様の調律によって私はイメージ通りの音色を皆さんにお届けすることができ、顔を綻ばせながら降壇します。そうすると今度こそ一休みできる時間となって、

「すみません。時間の都合で、休憩しつつ説明をさせていただきますね」

 マーティン様の行動などなど。作戦についての御説明が、始まったのでした。

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