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第13話 同時刻~接触~ マーティン視点(1)

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「応じてくれて感謝する。あの手紙に書いてある通り、君が喜ぶ話を持って来たよ」

 午後の一時を少し回った頃。俺は愛用している会員制リストランテの一角――個室に居て、対面にいるツリ目の女に穏やかな笑みを向けた。
 コイツはゼルデック伯爵家の長女・セリア。俺の臣下が見つけてきた、作戦にお誂え向きな該当者だ。

「マーティン様。貴方様のような御方が、わたくしに御用とは一体……? 『間違いなく喜んで賛同する話』とは一体……?」
「単刀直入に言おう。君には明日の夕刻会場の出入り口でステラ・レンダユスを待ち伏せし、襲うフリをして欲しいんだよ」

 最終目的および、そこに至るまでの行動内容。それらを説明した。

「わ、わたくしが、お芝居、ですか……? ど、どうしてわたくしに……?」
「君は演劇の嗜みがあり、時折その噂は耳に入っていたのでね。俺の計画には、そんな君が必要――君しか居ないと思い、こうして打診しているのだよ」

 というのは、嘘だ。
 この女は自分では上手く隠しているつもりだが、同世代の同業者――ピアニストに嫉妬し色々な妨害を繰り返していて、ステラにも強い嫉妬心を抱いていることも知っている。そして何より、金の亡者であること。金さえ積めばホイホイ言うことを聞く人間だから、打診したのだ。

「俺はとある事情で、どうしてもステラと復縁したくてね。それには今説明をした方法以外なく、この俺とタッグを組んで欲しいんだよ」
「………………」
「無論君の正体が悟られることも、名に傷がつくこともない。別人に成りすませる変装の用意はするし、治安局の知人にはすでに話を通している。なので一旦捕縛されるものの移動中に解放され、『素性不明の女が襲い掛かり、護送中に逃走した』という形で幕を閉じるようになっているんだよ」

 というのも、嘘だ。
 治安局に知人には確かに通しているが、それは『自殺に見せかけて始末してくれ』というもの。

 この作戦を知っている者が生きているのは、危険だからな。

 この女には護送中に死んでもらい、更には『嫉妬によりセリア・ゼルデックは襲撃を目論み、失敗に終わったことにより人生の転落を認識したことにより自死を選択した』という――。俺による庇う行為が不自然にならないように、役立ってもらう算段なのだ。
 そのため彼女は必要不可欠な人間で、絶対に自らの意思で賛同させなければならない。そこで俺は更に――

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