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第22話 だからあの時 ステラ視点

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「……そうだったのですね……。そのように、ずっと想ってくださっていて……。だからあの時、あのようにされていたのですね」

 レオナード様が、今まで抱いてくださっていた感情。今までお考えになられていたこと。それらを知った私の中に、あの日の光景が蘇ってきました。

『ステラ様。改めて、最高金賞おめでとうございます』

 復縁を望んだマーティン様が去られた後、祝福をしてくださった時。正装を纏われていて、左手を懐に入れかけてお止めになられていた裏には、そういった理由がおありだったのですね。

「ええ。かつて出来なかったこと、それを行おうと考えていました。……その日も再び先に進めない事態が発生しましたが、今度は同じようなことは起こさせない。あのように解決をできて――終止符を打てて、安堵しています」

 微苦笑を浮かべたあとそこから苦笑が消え、優しい微笑みが浮かぶ。レオナード様はお目にしているだけで心が温かくなるものを作ってくださり、左のお手が懐へと入ります。
 そして今度は止まることなく動き続け、月桂樹をモチーフとしたリングが現れました。

「ステラ様。僕は貴方を知って『人』として恋をして、貴方を理解したことにより『異性』として恋をしました」
「……はい」
「調律師としてだけではなく、家族として。ピアノだけではなく人生のパートナーとして、貴方の隣に居続け、愛し続けたい。この気持ちは生涯変わることはございません」

 この世に絶対はない――そんな話がありますが、こちらは例外です。何が起きようとも、微塵も変わりません。
 レオナード様は自信を持って断言され、左の手が真っすぐと私に伸びてきました――リングが、差し出されました。

「ですのでどうか、こちらをお受け取りください。わたくしに、人生最大の栄誉をお与えください」

 そうしてくださり、そんな風に仰ってくださる方。レオナード様でありヴィクター様は、私にとっても同じ方。

 調律師としても人としても、大切で。大好きな方。

 ……あのようなことがあった直後に、気持ちを伝えてもいいのでしょうか? そんな悩みを、このお言葉と微笑みが消し去ってくれましたので――

「そちらはこちらにとっても、人生最大の栄誉でございます。……レオナード様。私も、貴方様が大好きです。いつまでも、よろしくお願い致します……っ」

 ――嬉し涙を零しながらリングをいただいて、私はレオナード様の両腕に優しく包み込まれたのでした――。

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