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第5話 思いがけない来訪 俯瞰視点(1)

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「おねーさま? おなかいたいのですかー?」

 イーサンとアヴリーヌが、大騒ぎをして逃げ帰った翌日のことでした。ソフィアが廊下を歩いていると、トテトテと小さな男の子がやって来ました。
 彼は、ライリー・マーフェット。6歳の12こしたの、ソフィアの実弟です。

「ううん、いたくないわよ。どうしてそう思ったの?」
「だってね、おねーさま、むむむーっておかおしてるー。おなかいたい、じゃない?」
「そう、お腹痛い、じゃないの。心配かけてごめんなさいね、ちょっと考え事をしていたの」

『しっ、しまった!! このままでは父上や母上に黙って逝くことになる!!』
『そっ、そうでしたわ!! ですからっ、手紙っ!! 飲むのはっ、手紙を書いてからにしますわっ!!』

 あのように叫んで、時間稼ぎをしている二人。幼馴染がこれからどうするのかを考えていたため、つい表情が曇っていたのです。

「……良い部分も悪い部分もよく知っているから、わたし自身もはっきりとできないのよね。それは優しさ、ではなく、甘さなのでしょうね」
「? ?? ???」
「ごめんなさい、なんでもないの。そうだわ。心配をさせてしまったお詫びに、ご本を読んであげましょうか」

 ライリーは、本を読んでもらうことが大好きでした。そこで気分転換に紅茶を飲もうとしていたソフィアは、膝を折って――小さなライリーに目線を合わせて、優しく微笑みました。

「やったぁっ。おねーさまっ、ありがとーございますーっ」
「どういたしまして。じゃあ、わたしの部屋で読みましょうね」

 そうしてソフィアは今来た道を引き返し、椅子に座って読み聞かせを始めます。
 今日ライリーに読んであげるのは、よく彼らにおねだりされる、彼も大好きなお話『おんがくたい』。そのためライリーは終始ニコニコ笑顔で耳を傾け、それによって読み終える頃にはソフィアの心もあたたかくなっていました。

「おねーさまーっ、たのしかったですー。ありがとー、ございましたー」
「こちらこそ、ありがとうね。貴方のおかげで、わたしも元気に――? どうぞ。レオナルド、どうしたの?」

 姉弟で微笑み合っていると静かなノック音が聞こえてきて、応じると扉の向こうからマーフェット家の家令が現れました。

「お嬢様。オリヴァー様がお見えになりました」
「え? オリヴァーが、わたしに用事? なんなのかしら……?」

 オリヴァーはイーサンの一歳半下の実弟で、幼馴染の最後のひとり。これまでずっと親しくしていましたが、一切アポイントメントのない来訪は初めてでした。
 そのためソフィアは戸惑いながら『血の繋がらない弟』が待つ応接室へと向かい、そこで――。彼女は、思いもよらないものを聞くこととなったのでした。

「ええ!? イーサンとアヴリーヌが、少量の毒を飲んで協力させようとしているっ!?」

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