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「春香は、覚えてるよね? 父さんと母さんが蒸発した直後に、僕の精神が不安定になっちゃってたでしょ?」
「……うん。なってたね」
毎日泣いて、一日一時間も眠っていなかった。あれは……。
「あれは、家族がいなくなったからじゃない。知っちゃったんだよね?」
「蒸発の手掛かりがないかと思って部屋を探していたら、二つの遺影を見つけちゃったんだ。そのせいで頭の中が真っ白になって、死のうと思ってた」
今までの全部と今の自分の全てが、作られたものだったんだもん。誰だってそうなっちゃう。
「だけどね、そんな時に春香が言ってくれたんだ。『夏樹お兄ちゃんには私がいて、私には夏樹お兄ちゃんがいる。どんなことがあっても、二人で支え合えば大丈夫だよ』ってね」
それは、よく覚えてる。
あの時は私もかなり取り乱していたんだけど、お兄ちゃんが泣いているのを放っておけなかった。そういう気持ちが悲しみとかを上回って『自分がしっかりしないと』と思い、前を向くようにしたんだよね。
「僕の――夏樹さんの記憶だと、春香は動揺しやすい子。あんな状況でそんな言葉は、絶対に出せない子。つまりあの言葉は、『今の春香』の言葉だった」
「………………そう、なるね」
「そんな『本物』の言葉は『偽物』ばかりと嘆いていた僕にすっごく響いて、『確かに偽物ばかりだけど、傍には素敵な本物があって想われてるんだ』って気付けた。身体の中に、生きる力が湧いてきた。だから僕にとって春香は命の恩人で、僕の心の支え。あの時からもっともっと大好きになって――記憶とか関係なく自分の意思で『今の春香』が大好きになって、ああやって接させてもらってたんだよ」
「…………そう、だったんだ…………。私はちゃんと、愛情を注がれてたんだね……っ」
記憶も身体も友達も周りの人達も全て偽物だったけど、ここだけは本物だった。この人と紡ぐこの関係だけは、この私が作ったものだったんだ。
「あの時助けてもらったから、今度は僕が助ける番。春香には僕がいて、僕には春香がいる。どんなことがあっても、二人で支え合えば大丈夫だよ」
「…………そうだ、ね……っ。そうだね……っっ。ありがとう、お兄ちゃん……っっっ!」
私は包丁を置き、夏樹お兄ちゃんの胸に飛び込む。
涙なんて枯れ果てたと思ってたけど、こっちも間違いだった。嬉し涙が溢れてきて溢れてきて、止まらない。
「ありがとう、お兄ちゃん……っ。ごめんなさい、お兄ちゃん……っっ」
「ううん。いいんだよ、春香」
優しく抱き締めてくれて、私は柔らかい感触と良い匂いに包まれる。
昔から大好きだった、この感触と匂い。でも今この二つをそう感じているのは、クローンだからじゃない。相手がこのお兄ちゃんだから、そうなってるんだ。
「僕たちは本物じゃないけど、僕にとって春香は本物の妹だよ。これからもよろしくね、春香」
「私もっ。私にとっては、夏樹お兄ちゃんが本物のお兄ちゃんっ。これからもずっとずっとよろしくね、夏樹お兄ちゃんっ!」
私達はもう一度強く抱き締め合い、揃ってニコリ。この私とこのお兄ちゃんのオリジナルな表情で笑い合い、お互いをしっかりと感じ合うのでした。
ここにいる二人のスタート地点は意図的に作られたものだったけれど、このリスタートは意図的なものなんかじゃない。
これから私達は新しい、誰の手も加わっていない道を歩き始める。ここにいる、記憶よりもずっとずっと大切な人と一緒に――。
「……うん。なってたね」
毎日泣いて、一日一時間も眠っていなかった。あれは……。
「あれは、家族がいなくなったからじゃない。知っちゃったんだよね?」
「蒸発の手掛かりがないかと思って部屋を探していたら、二つの遺影を見つけちゃったんだ。そのせいで頭の中が真っ白になって、死のうと思ってた」
今までの全部と今の自分の全てが、作られたものだったんだもん。誰だってそうなっちゃう。
「だけどね、そんな時に春香が言ってくれたんだ。『夏樹お兄ちゃんには私がいて、私には夏樹お兄ちゃんがいる。どんなことがあっても、二人で支え合えば大丈夫だよ』ってね」
それは、よく覚えてる。
あの時は私もかなり取り乱していたんだけど、お兄ちゃんが泣いているのを放っておけなかった。そういう気持ちが悲しみとかを上回って『自分がしっかりしないと』と思い、前を向くようにしたんだよね。
「僕の――夏樹さんの記憶だと、春香は動揺しやすい子。あんな状況でそんな言葉は、絶対に出せない子。つまりあの言葉は、『今の春香』の言葉だった」
「………………そう、なるね」
「そんな『本物』の言葉は『偽物』ばかりと嘆いていた僕にすっごく響いて、『確かに偽物ばかりだけど、傍には素敵な本物があって想われてるんだ』って気付けた。身体の中に、生きる力が湧いてきた。だから僕にとって春香は命の恩人で、僕の心の支え。あの時からもっともっと大好きになって――記憶とか関係なく自分の意思で『今の春香』が大好きになって、ああやって接させてもらってたんだよ」
「…………そう、だったんだ…………。私はちゃんと、愛情を注がれてたんだね……っ」
記憶も身体も友達も周りの人達も全て偽物だったけど、ここだけは本物だった。この人と紡ぐこの関係だけは、この私が作ったものだったんだ。
「あの時助けてもらったから、今度は僕が助ける番。春香には僕がいて、僕には春香がいる。どんなことがあっても、二人で支え合えば大丈夫だよ」
「…………そうだ、ね……っ。そうだね……っっ。ありがとう、お兄ちゃん……っっっ!」
私は包丁を置き、夏樹お兄ちゃんの胸に飛び込む。
涙なんて枯れ果てたと思ってたけど、こっちも間違いだった。嬉し涙が溢れてきて溢れてきて、止まらない。
「ありがとう、お兄ちゃん……っ。ごめんなさい、お兄ちゃん……っっ」
「ううん。いいんだよ、春香」
優しく抱き締めてくれて、私は柔らかい感触と良い匂いに包まれる。
昔から大好きだった、この感触と匂い。でも今この二つをそう感じているのは、クローンだからじゃない。相手がこのお兄ちゃんだから、そうなってるんだ。
「僕たちは本物じゃないけど、僕にとって春香は本物の妹だよ。これからもよろしくね、春香」
「私もっ。私にとっては、夏樹お兄ちゃんが本物のお兄ちゃんっ。これからもずっとずっとよろしくね、夏樹お兄ちゃんっ!」
私達はもう一度強く抱き締め合い、揃ってニコリ。この私とこのお兄ちゃんのオリジナルな表情で笑い合い、お互いをしっかりと感じ合うのでした。
ここにいる二人のスタート地点は意図的に作られたものだったけれど、このリスタートは意図的なものなんかじゃない。
これから私達は新しい、誰の手も加わっていない道を歩き始める。ここにいる、記憶よりもずっとずっと大切な人と一緒に――。
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クローンは偽物かもしれないけど、夏樹と春香は本物の兄妹になったのかもしれませんね。
親がいなくてもたったふたりだとしてもきっと幸せに暮らせるんじゃないでしょうかね。
素敵な物語をありがとうございます。
景綱様。わざわざ感想をくださり、ありがとうございます。
はい、そうですね。二人は本当の意味で、兄妹になれました(春香も、そうなのだと自覚できました)。
ですので今後は、何があってもその間にある絆は揺らぎません。彼女たちを待っているのは、明るい未来。ただ一つ、だと思います。